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「主さま…!!」 「らい、らい……!」
浴衣を持って廊下を歩いていた歌仙は、風呂から聞こえる大声に足を早めた。 体を拭くためのバスタオルと浴衣を着替え棚に置くと、風呂場の扉を叩いた。
「主、お小夜、剣勢、どうかしたのかい!?」 「…歌仙!大変なんだ、主さまが湯船の中で気を失って…!」
風呂の中でくぐもって聞こえた小夜の声に、歌仙は風呂場の扉を開けた。 そこには髪を結い上げた薄氷が目元まで湯船に浸かっていて、小柄な小夜と剣勢が一生懸命引き揚げようとしていた。 小さな二人では無理だと直ぐに感じた歌仙は、服が濡れるのを厭わずに風呂場に入り、二人に手を貸した。 力無く、グッタリする主を三人で引き揚げる。 歌仙は薄氷の背と膝裏に腕を通して抱え上げると、脱衣所まで運んだ。
「お小夜、バスタオルを床に敷いてくれ」 「わかった」 「剣勢は手拭いを」 「うん」
歌仙はテキパキと指示を出していく。二人はタオルを腰に巻く事なく、全裸でそれに従う。
「どうかしたのか!?」
そこに騒ぎを聞きつけた山姥切も風呂場に顔を覗かせた。 敷かれたバスタオルにグッタリと横たえられた薄氷を見て、山姥切は驚愕した。
「…一体、どうしたんだ」 「主が湯船で気を失ったらしい。山姥切、浴衣を取ってくれ」 「…あ、ああ…」
歌仙は薄氷の髪を解くと、身体を剣勢から受け取った手拭いで拭いていく。小夜は「何があったんだ」という山姥切の質問に答える。
「主、話してる途中でいきなり話さなくなったと思ったら、お湯の中に沈んで…僕らじゃ引き揚げられなくて」
小夜は手拭いで体を拭きながら、山姥切と歌仙に事の経緯を話すが、何分突然の出来事だった為、情報が無い。 剣勢は不安そうに薄氷を挟んで歌仙の反対側にしゃがみ込んでジッとしている。
「剣勢。風邪を引くから、お小夜みたいに体を拭いて着替えておいで。主は僕と山姥切で着替えさせるから」 「……わかった」
剣勢は小夜を見て、真似して体を手拭いで水気を拭っていく。ちらちらと頻りに薄氷の様子を窺っている。
「山姥切、僕が主を抱え上げるから、その浴衣と帯を敷いてくれ」 「ああ」
浴衣に両腕を通し、何とか歌仙と山姥切で木綿の浴衣を着せると、歌仙はもう一度抱え上げた。
「…か…歌仙。…らいは…?」
不安が滲み出た声で剣勢は歌仙を引き留めた。 剣勢はまだ浴衣を着ておらず、裸のまま手拭いを握りしめている。 歌仙は腕の中の薄氷を抱え直すと、安心させる様に剣勢に優しく答えた。
「大丈夫だよ。主を布団に寝かせてくる。先に行くから、部屋は後でお小夜に案内して貰ってくれ」
山姥切を連れ、歌仙は脱衣所を後にした。 歌仙の後に脱衣所を出た山姥切は静かに扉を閉める。
「……軽いな、主は」
廊下に出た歌仙は独り言ちた。 歌仙の後ろを付いて歩いていた山姥切は声を掛けた。
「主は大丈夫なのか、歌仙」 「眠ってるだけさ。僕らを顕現したり、結界を張ったり、霊力の消費が激しかったからじゃないかな…。昨日の事もあったし、漸と風呂に浸かれてホッとしたんだろう。良く寝てるよ」 「そうか…」
審神者用の部屋に入ると、歌仙は部屋の隅に薄氷を横たえる。
「…布団を敷こう。山姥切は剣勢の分を敷いてくれるかい?」 「ああ、わかった」
二人は布団を無言で敷く。 敷きながらチラリと薄氷を見るが、当の本人は身動き一つ取らない。 目は閉じられており、濡れた長い黒髪は月明かりに照らされている。
「この霊力に、折れた刀を直す力、本当に人と思うかい?山姥切」 「どうだろうな、俺には分からないが……俺達の主には変わりは無いだろう」 「…そうだね」
そう言いながら布団を敷き終えると、再度薄氷を抱き抱え、敷いたばかりの布団に横たえた。 歌仙は掛布団を掛け、山姥切は顔に掛かった髪を払ってやる。
「おやすみ、主…」
パタリと襖を閉めて、二人は部屋を後にした。
………………………… (20190704) 風呂で気を失った(寝た)夢主の、記憶が無い間の出来事。 出張る歌仙。笑
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