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この影時間に動くエンジン音なんて私は一つしか知らない…!


ブォオオンとアクセルを全開にした湊君がこちらへ近づき、召喚銃を構えていた。


「オルフェウス!」

エンペラーが剣を振り下ろす。それを防ぐオルフェウス。
めちゃくちゃかっこいー!と内心フィーバーしながらも目の前で庇ってくれたオルフェウスが消える。

「湊!」

ブレーキをかけて止まったバイクから湊が降りながら再度オルフェウスを召喚してエンペラーに追撃をかける。
倒れていた仲間たちも顔を上げて湊の登場に驚いていた。

「オルフェウス…」
「何で…」
「またおいしいところ持って行きやがって…お前は…!」

希望と高まる士気。

「ダメだ!そいつに炎は効かねぇ!オルフェウスの攻撃じゃ…」
「そうか…」

順平君が叫ぶと、湊は素直に従い、ペルソナを切り替えてサラスヴァティを召喚した。

「「!」」
「へっまた違うペルソナを召喚しやがった…」

ブフーラを放ち、2体とも氷結させる。身動きの取れなくなった敵をみて皆が一瞬気を抜きそうになる。

「やっ…た?」
「いや…」
「まだだよ!構えて!」
「気をつけて!まだ生きてます!」

またしても魔方陣が2体の前でぐるぐる回り始める。
ピタリと魔方陣の動きが止まり、消えたかと思うと氷が砕け散る。
その衝撃でサラスヴァティと湊、私も一緒に吹き飛ばされた。
衝撃が強すぎて湊は風花ちゃんのペルソナに背中を強打し、私は更に後方へ吹き飛ばされ床に叩きつけられた。

「ぐっ…!」
「うっ、ぐっ…!」
「くっ、やはりダメか…!」

ふらふらしながらも立ち上がった湊を見て、桐条先輩が必死の形相で訴える。

「有里!山岸と森山を連れて逃げろ!」

撤退しろと言われた湊は驚き、目を見開く。


「え?」


「このままでは全滅だ!村木!動けるならお前も3人について行け!お前たちだけでも行くんだ!早く!」

吹き飛ばされた衝撃であちこちが痛い。息もし辛い。
薙刀を支えに立ち上がった私にも撤退しろと告げる桐条先輩の声はどこか遠く聞こえる。
自分の息遣いがうるさく、返事も出来ない。



「は、…はっ…」



顔を上げて見た先ではエンペラーが剣を振り上げて湊へ振り下ろそうとしていた。
咄嗟にチシャ猫を召喚して湊の盾になってもらった私は、自分の体に鞭打って足を前へ前へと動かした。


「何してる!行け!早く!」


チシャ猫の援護にポリデュークスが回る。
真田のフォローに伊織がヘルメス召喚。同じくゆかりがイオを召喚した。


「やらすかよ…さっさと行けよ!」
「行って!早く!」


仲間に守られ逃げ道を作ってもらった湊。


「ハァッ、ハァッ…」



息を荒げ次々倒れる仲間。精神的にも体力的にも限界が近い。
しかし、お互いにフォローし合いながら諦めずに仲間を、友を逃がすために立ち上がる。


「行け!有里!これは命令だ!」
「有里!」




「湊選べ!逃げるか、戦うか!私は戦うって、守るって決めた!」




痛みで少しでも気を抜けば立っていられない。
それでも自分の決めたことは曲げたくない。



――――
――――――――
――――――――――――

有里の脳裏にモノレール戦での記憶が蘇る。
仲間だから守り、守られる。助け合うのだと。
失うのは怖い。
それは相手が大切であればあるほどに。
だからこそ、どうでもいいなどど言えるはずが無いのだ。

理由はただ失いたくない、それだけ。

自分で預けた背を、友を、見捨てられない。見捨てたくない。
もう一度グリップを強く握りしめて有里は立ち上がる。


「オルフェウス…!」


消されても、吹き飛ばされても、何度でも立ち上がる。
仲間が自分たちを逃がすためにしてくれたように。
ぼろぼろだった真田が気力を振り絞って立ち上がり、ポリデュークスを召喚。
ジオを盛大に放つ。

「守られるだけなんて面白くないからな。」

後を追うように伊織もヘルメス召喚。敵へと突っ込んで行く。

「俺の仲間をこれ以上やらすかよ!」

晴もチシャ猫を召喚し、スラッシュ。

「さっさと沈め!」




突如、風花の視界がぶれる。



「えっ、何…?見える…?あっ!」

敵の周囲を注意深く見ているとオーラのようなものが見え始めた。







―――――やっと分かった自分の力の使い方。






「炎を!今なら効きます!」
「えっ!?」
「早く!」
「っ、ヘルメス!」

風花からの指示に戸惑いながらも従うと、ダメージを確かにくらい、よろけるエンペラー。

「マジかよ…効いてるぜ!」
「この敵は、自分の弱点を自在に変えられるんです。でも、完全にはなれないから、必ず弱点は存在する。」
「まさか…見えるのか!?」
「なるほどね〜すっごいじゃん風花ちゃん!」
「はい、風を!」
「分かった!」
「りょーかい!」

エンプレスへ岳羽がガルを当てるのと一緒にスラッシュを当て、追い打ちをかける。
倒れたエンペラー、エンプレスの前で魔方陣がぐるぐる回り始める。

「また弱点を変えるぞ!」
「雷を!」
「この瞬間を待っていた!」

いい笑顔でポリデュークスを召喚した真田。

「氷です!」
「ジャックフロスト!」

風花の的確な指示で皆の顔から絶望の色が消えた。
見えるのは全員の生還と勝利だ。
エンペラー、エンプレスの弱点の切り替えもだんだん早くなるが、風花が一つとして見逃さない。

「剣が効きます!」
「よっしゃあ!」

ヘルメスが二連牙で敵の腕を切り落とす。
すかさず真田がとどめを刺すようにポリデュークスがソニックパンチで沈め、エンプレスが消滅する。
魔法援護の敵が消えたことにより、残るエンペラーに皆で向かう。

「あと1体!いける!」
「今度は炎が効きます!」

ヘルメスがアギでよろけさせると、限界だった伊織は有里へバトンタッチする。

「ラストだ!どんと行け湊!」
「有里君お願い!」
「有里!」
「やれ!有里!」
「いっけー!湊!」
「ペルソナ!」



オルフェウス召喚。敵へと掴みかかり、超至近距離でアギを浴び、燃え尽きて消滅するエンペラー。
満身創痍の湊は膝をついて仲間を見渡す。




「あ…ハァ…ハァ…ハァ…」
「…私たち、生きてるの…?」
「生きてるってさいこー…」
「フッ」
「やった…はは…やったな…!ははは…」





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