タルタロスエントランス
バッと皆で飛び込んだ先で見たのは、倒れ込んでいるゆかりちゃんと桐条先輩だった。
頭からさぁっと血が引いていくのを他人事のように感じていた。
「あ…」
足を止めてしまい、とっさに何も出来ない私と違って男性陣二人は階段下のホールに。
風花ちゃんも階段の途中まで男性陣と一緒に駆け下りていく。
動け、援護に回れ、と必死に念じても縫い止められてしまったように感じて指先一つ動かせない。
「美鶴!」
「ゆかりっち!」
「ぐっ、気をつけろ…!こいつ…」
「これ以上好きにはさせん!ポリデュークス!」
痛む体を起こしながら桐条先輩が呼びかけるが、距離が遠くて聞き取れない。
召喚されたポリデュークスがエンプレスへ飛び込んでいく。
しかし、たいしたダメージにはならなかったようで、よろけることすら無かった。
「ふっ…打撃はあまり効いてないようだな。ならば!」
物理がダメなら、とジオをエンプレスへと放つ。
「さすが先輩!俺も負けらんねぇ!」
意気揚々と順平君はヘルメスでエンペラーへ突撃をかましていく。
更に追い打ちをかけるようにアギを放つ。
「ふん、骨が無いな。」
エンペラーとエンプレスをダウンさせると、やっと足が動く。
階段を駆け下りていく私は、ここ1ヶ月の出来事が走馬灯のように駆け巡る。
湊がいるからと戦う決意をして、何度もタルタロスへ行き、シャドウを切り捨て、つい先日も大型シャドウのプリーステスの戦闘経験も積んだはずなのに、現実だと自分に言い聞かせるのではなく、頭が、心が、《今》を理解した瞬間にこれだ。
ろくに動けなくて役立たずすぎて笑うことすら出来ない。まるで目の前で映画を見せられているようだった。
―――覚悟をしたつもりだった。
自分や仲間が傷つくことも、ペルソナも、自分が死ぬことすらも。
皆ひっくるめて全部全部守りたい、嘘なんかじゃ無い。
もう一度、覚悟を決めなければ…・・・
今何も出来なければ世界も、仲間も、湊君一人すら、守れない。
「あ…」
倒れたエンペラー&エンプレスの体の上で魔方陣がぐるぐる回転し始めた。
「なっ、なんだ!?」
まぜこぜになり、それぞれの体内へ消えると同時にシャドウは起き上がる。
「ここは俺が!」
ヘルメスを召喚。しかし、先ほど効いたはずのアギが効かない。
「さっきは…効いたじゃん…!」
動揺しているところにエンペラーからの攻撃をもろにくらう。
「順平君!」
叫んだが、攻撃をくらい一歩反応に遅れた順平君と範囲にいた真田先輩まで巻き込んでエンプレスのガルーラで吹き飛ばされる。
「「ぐ、ぐああーー!」」
倒れ込む二人。とどめを刺そうと近寄る敵。
更に最悪な事態は重なる。エンプレスが風花ちゃんを見つけ、立ち止まったのだ。
「あ…」
間に合って!ペルソナを召喚して、スラッシュで吹き飛ばせばいい。
ハマで足止め程度でもかまわない。
口だけじゃ無く手を!
足を!
動かせ!
「ペルソナァッ!!」
この後の展開で知っていることはメモに書いたけど詳しく時系列を書いてあるわけじゃない。
むしろ満月に大型シャドウ、とか、最後はユニバース、とかざっくりとしか書けていない。弱点なんて知らない。
なら、そんなもの全部捨ててしまえ。
勢い任せにこめかみへ銃口を向けて打ち抜く。
スラッシュをエンプレスへ連発させてよろけさせる。
相手の弱点ではないからダメージはいまいち。
でも、少しでも押してよろけさせればちょっとの隙くらいは出来る!そしてそのまま風花ちゃんのもとまで駆け下りて背にかばう。
「晴ちゃん!?」
「風花ちゃん、この階段いっそいで駆け下りてエントランス真っ直ぐ突っ切って。逃走経路は作るから。」
「え、で、でも先輩たちは?」
「だいじょーぶ!なんとかする!…信じて。」
「…分かった。」
「いい?せー、のぉ…!?」
風花ちゃんの背を押して走らせようとしたけど、奥からふらふらとエントランス内に入ってくる森山夏紀を発見した。
「は、まじ…!?」
「森山さん!?」
「馬鹿な…!なぜ来た!」
「ふ…ふう、か…」
影時間に適性はあるようだが、適応しきっていないようで、こちらの声が聞こえておらず、足取りが怪しい。
そんな獲物を敵が見逃すはずも無く、エンペラーが森山夏紀に迫ろうとしていた。
「あ…だめぇ!」
「あーもう!」
思わず駆け下りた風花ちゃんの後を追うように私も駆け出した。
それを見たボロボロの真田先輩は必死に戻れと叫んでいたが、走り出した足は止まらない。
幸いにもエンペラー&エンプレスの動きはノロい。しかし当たれば重い。
風花ちゃんに攻撃が当たりそうになる度にガルで振り落とされる剣や杖の軌道をそらす。
たどり着いた先で座り込み、呆然としている森山夏紀に逃げてくれと肩を掴んで訴える風花ちゃん。
「風花…あ…わ…私…あんたに、謝らなきゃって…!」
「え!」
「ごめん…風花…ごめん…!」
「森山さん…」
泣く森山夏紀。気にしていないないというように首をふり、微笑む風花ちゃん。にじり寄る大型シャドウ。
頭を抱えたくなったが和解の邪魔はしたくない。
しかしそんなことは言っていられなくなったので、二人に背をむけて声をかけた。
「二人とも立って走れる?こっち振り返らずに真っ直ぐここから出てほしいんだけどなぁ。」
「晴ちゃん、私も…」
「風花…何する気?言う通りにして一緒に逃げよう!?」
私の隣に立って敵に召喚銃を向ける風花ちゃん。
「違う、それは武器じゃない!」
「分かってます…」
真田先輩が焦ったように風花ちゃんへ叫ぶ。落ち着いた様子で自分へ銃口を向け直し、それを驚いた森山夏紀は唖然として見ていた。
「な…!」
周りの仲間たちは風花ちゃんたちに逃げろと口々に声を荒げる。
銃を持つ手が微かに震えていたのを見た私は、逃げて欲しかったんだけどな、と思いながらも風花ちゃんに笑いかける。
「大丈夫だよ、風花ちゃん。絶対風花ちゃんも森山さんも守るから。」
「うん…!」
目を合わせて軽く微笑み合って静かに呟いた。
「……ペルソナ」
女性の姿をしたそれの下腹部、胎内に風花が入った状態で召喚された。
皆初めて見る召喚の形にびっくりしながらも、敵の攻撃に慣れてもいない、使い勝手もわからないペルソナの中で耐える風花。
こちらも降り注ぐ攻撃を弾き、森山夏紀をかばい続けた。
「無茶だ…お前のペルソナは戦闘タイプじゃない!村木!さっさと二人を連れて逃げろ!」
「いや、ちょーっと厳しいっすね!げっ!」
敵のガルの相殺に間に合わず、森山夏紀が吹き飛ばされ衝撃で気絶してしまった。
「森山さん!あっ…あ…」
森山夏紀に気を取られた隙をついてエンペラーが剣を風花に振り落とそうとするのを横目に見て攻撃のショックで風花のペルソナが消えてしまわないよう前に立ち、薙刀をぎゅっと握りしめて構える。
あれ、私前回のプリーステスの時も似たような事してた気が…。
遠い目をしてしまいそうになるが、その時、入り口からエンジン音が聞こえてきた。
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