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月光館学園 体育館

意気揚々と順平君が先頭に立ってがらがらと大きな音をたてて体育館の扉を開けた。

「ねー?すんなり入れたっしょ?俺ってなんつーか、天才!?」
「昼間のうちに鍵を…!ブリリアント!」
「えっ?ぶりぶり?」
「グッジョブ!」
「は?」
「順平君最高!」
「だろー!?」

いつの間にやら順平君が昼間のうちに体育館の鍵を開けていたようで、すんなり中に入る事が出来た。
桐条先輩は時計をチラリと確認した後、口を開いた。

「よし、ここからはチームを二つに分ける。三人がこのままタルタロスに突入。私とあと一人が外でスタンバイだ。」
「俺は突入組に入る。」
「私も!風花ちゃんを助けたいので!」
「あ、じゃあ私も真田先輩たちと…」
「タイムターイム!ゆかりっち。」
「え、何よ。」
「ほら、俺前のモノレールん時迷惑かけちったじゃん?汚名挽回させてくれよ。な?」
「汚名は返上するものだ。だがそういうことならチャンスをやる。突入は俺たちでやろう。」
「よし!」

ゆかりちゃんに突入枠を譲ってもらおうとした順平君の熱意を、真田先輩が受け入れた。
そのため、突入組は真田先輩、私、順平君の三人。
ゆかりちゃんは必然的に桐条先輩とのスタンバイ組になる。

「あぁ…」
「何だ岳羽、美鶴と二人きりは苦手か?」
「え?いや…、そんなこと無いですよ!?」

軽くうなだれるようなそぶりを見せたゆかりちゃんを横目に真田先輩が苦手かどうか聞くが、ゆかりちゃんは慌てて否定した。
つか、真田先輩や…本人たちの前で苦手かどうか聞くのは失礼では…?
私は桐条先輩と二人きりでも問題はないけど、今日は風花ちゃんの救出日なので譲れない。悪いね、ゆかりちゃん。



「ならば全員準備に取りかかってくれ。もうすぐ時間だ。」



影時間まで残り10分きった。




影時間 突入組

体育館の中で影時間を待った私たちは、どんどんタルタロスへ変貌していく様を眺めていた。
空間がねじれ、広げられ、いつもの気味の悪い空間へ変わったことを確認し、タルタロスが安定したと判断した私たちはさっそく動き出した。

「外からだとタルタロスへ変わるとき下からにょきにょき生えてくるような感じだったけど、中はむりくり広げたように変わるんですね。」
「そうだな。元の名残すらないし、なかなか出来ない体験だな。あと順平、そんなにビビるな。」
「そんなこと言ったってぇ…相変わらず不気味だしぃ〜…こえーんすよ…」
「そろそろ慣れようよ…ここに来るのも何回目よ…怪談話とか順平君大好きじゃん。寮でも雰囲気作って話してたじゃん。」
「好きだけどこえーもんはこえーんだって!想像しちゃうの!」
「好きすぎて逆に想像力が膨らんで怖くなるパターンか。難儀だな。」

呆れながら笑う真田先輩とおびえる順平君を横目にキョロキョロとあたりを見回して風花ちゃんを探す。
色々ぐるぐる回りながら探し歩くと、言葉数が減っていったが集中力だけは切らさないようにしていた。
何度か戦闘もしたが、特にケガをすることも無かった。
しかし、桐条先輩のサポートの通信が不安定になったあと、繋がらなくなってしまった。

「このあたりにはもうシャドウいないですね。…風花ちゃんもいないけど…」
「こんなに探してるのになー…それに、桐条先輩の声が聞こえなくなってからもう30分以上経ってるんですよぉ…?俺たちも大丈夫かどうか…」
「大丈夫だ、安心しろ。時間は0時のままだ。」
「先輩…」
「笑えないっす先輩…」





「誰…?」





突然響いた声に歩みを止め、各々が武器を構える。




「誰かいるの?」




徐々に近づいてくる足音と声に私は走り寄った。



「人…なの…?」



恐る恐る存在を確認するように、曲がり角から風花ちゃんが現れた。

「風花ちゃん!」
「…山岸風花か!」
「え?あ、はい。晴ちゃん…?どうして…?」
「もう大丈夫だぜ。あんたを助けに来たんだ。」
「え?私を助けに?」
「無事でよかった…!けがとかしてない?!気分悪いとか!?」
「ううん。大丈夫、特になんともないよ。ありがとう。」
「つうか、よく無事だったな。ここ、化け物出るだろ。」
「やっぱり、ここ何かいるんですね。今のところ何とか見つからずにすんでますけど…」
「見つからずにって…一度もか?どうやって!?」
「ええと…何て言ったらいいか…居場所がなんとなく分かるっていうか…」
「分かるって…何だそりゃ?女の勘ってやつ?」
「勘って…んなわけないじゃんよ…」
「美鶴と同じ探知型の能力…いや、あいつ以上かもしれん。…これを持っていてくれ。」
真田先輩がおもむろにポケットから召喚銃を風花ちゃんに手渡した。
「え!?これ…!?」
「お守りみたいなものだ。弾は出ない。」
「ま、今手元にあるだけでも損は無いから持っててよ。」
「う、うん…」

不安そうに召喚銃を見ていた風花ちゃんに持っててと私も声をかけ、おずおずと銃を受け取る風花ちゃん。
用途説明も無く渡されるのは不安だろうけど、説明している時間が惜しい。
合流出来たということはもうすぐ大型シャドウが現れてしまう…。

「真田先輩、風花ちゃんも無事発見出来たし、すぐ桐条先輩たちの所へ向かいましょう!」
「あぁ、そうだな。」
「うおお〜!月でか!明る!てか、こんなぎらぎらしてたっけか?」
「月の満ち欠けはシャドウの調子に影響するって説がある。もっとも、人間も同じだがな。」
「いや、今そんな解説してないで移動しません?」
「あぁ。そうだな、すまん。」

…なんかやばい予感がする。
なんとなくでしかないけど、そわそわ落ち着かない。
この後ってどうなってたっけ…?大型シャドウが出てくるってことしかわからん。
真田先輩も何か引っかかるのか、考え込み始めてしまった。





「…?満月だ…そうだ、あの日の夜もその前も…!」




「え?」
「なんすか?」
「くっ…なぜ、もっと早く気がつかなかった…!寮の襲撃の日、モノレールで戦った日そして今日!全て満月なんだ!」

なるほどね。ここで真田先輩が気づくのか!つまり、湊くんの所にもファルロスが来ててこっちに向かってくる…はず…!



《…こ、…き、こ!》


「美鶴か!」
《シャド…が…気をつけろ!》
「美鶴!美鶴!」
「桐条先輩!」
「何これ…今までのよりずっと大きい…!はっ!人を襲っています!」
「急ぐぞ!」
「な…なんすか!?どういう事ですか!?」
「風花も順平君も走って!急いで!」
「出たんだ。恐らく奴らは…満月に出るんだ!」
「ここ!エントランスに出るよ!飛び込んで!」



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