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6月8日
月光館学園生徒会室

私が湊たちにいじめ情報をげろったことで病院に運ばれた女子生徒たちとつるんでいた森山夏紀へと行きつき、私たちは事情を聞くために桐条先輩の生徒会長権限を使い、生徒会室に彼女を呼び出した。
呼び出された森山さんは瞳を揺らし、泣きそうな顔で話し始めた。


「こんな…こんなことになるなんて…」
「女子生徒2人が意識不明になった日の前日も君たちは4人で校内に残っていたそうだな。一体何をしていた?山岸をどうしたんだ。」
「ほんの…ほんの遊びのつもりだったの…」

放課後の体育館の体育倉庫に嫌がる風花ちゃんを押し込み、鍵を閉めたと、彼女は話した。

「閉じ込めたのか。」
「遊びのつもりだった?薄暗くなった放課後に明かりもついてない倉庫に一晩閉じ込めておくことが遊びって…ふざけんなよ。人にトラウマ級のモン植え付けたって理解してるわけ?」

沸々と怒りがこみ上げてくる。
知っていて適当に流して諦めた私も、風花ちゃんを大事にできない森山さんにも。
何が物語通りだから大丈夫、だ。大丈夫なわけないじゃないか。
全部現実で起きていることなのに。私も少し前の順平君と同じでゲーム感覚でいて、風花ちゃんの心身の安全を守らなかったことに今更気づいた。
自分が森山さんに言った言葉はそのままブーメランで私に返ってくる言葉で、何を言っても完全な八つ当たりだ。歯を食いしばって俯くことしか私にはできなかった。
そんな私の言葉を聞いて森山さんは声を荒げた。

「だから!…だから、夜中になって自殺されるとまずいからってマキたちが学校行ったんだ。でも、そのまま2人とも帰ってこなくて…!」
「次の日校門の前で倒れてるのが見つかった、か。」
「あたし、怖くて!風花出さなきゃって体育館行ったらまだ鍵かかったまんまで…でも、開けたら風花消えちゃってて!」

そうだね。未だにタルタロスの中にいるんだもの。
都合よく朝を迎えることができました、とはいかないよね。
風花ちゃんは影時間への適性を持っていたから倉庫の中で影時間を迎えてもシャドウから逃げ回ることができて、襲われて無気力症になって発見されることは無くタルタロスの中で生き延びてる。
適性が無かったあの子たちはシャドウへ対抗するすべも持たず襲われて発見された。
それが今回の事件のすべてだ。

「消えていた…なるほど。」

静かに話しを聞いていた桐条先輩は納得したように軽くうなずいたあと、最後の質問をなげかけた。

「病院へ運ばれた君の友人について何か気づいた事は無いか?」
「…声だ。自分を呼ぶ声。みんな気味の悪い声を聞いたって。」
「声?」
「まさか、それが!」
「間違いない。誰が影時間に落ちるかを知る方法はずっと無いと思っていた。なるほど、声か。」
「呼ばれて影時間に落ちる…いや、落とされる。」
「実際の被害を目の前にすると思い知る。ヤツらは確かに人間を狙ってる。シャドウ…紛れもなく人類の敵だ。」
「桐条先輩、声って分かったところでやっぱり予防策は取り辛いと思うんですけど…」
「そうだな。しかし、何も分からない、というよりは一歩進んだと思うぞ。」
「まぁ、確かにそうですね。」

私と桐条先輩が言葉を交わすなか、ぽつりと疑問の声を漏らしたのはゆかりちゃんだった。



「…でも、山岸さんはなんで無気力症じゃなくて行方不明なんだろ…」



まだこの時点でS.E.E.Sの皆が自分たちの持っている情報をまとめていない。
そのせいで答えにたどり着いていないが、桐条先輩はきっともう気づいてる。

「やっぱり、それもシャドウの仕業なんだよな?」
「…さぁ?」

私の横で順平君も頭をひねって湊に話しを振っているが、相変わらず取り合わないなぁ。
そしてその湊の態度にキレるのはゆかりちゃんだ。ムッとした顔で湊に詰め寄る。

「なにその言い方。山岸さん顔見知りなんじゃ無かったの!?」
「そうだな。」
「心配じゃ無いの!?」
「おい、ゆかりっち何カッカしてんだよ。」
「だって!!…晴は有里君の態度なんとも思わないの!?」
「あー…ウン。ソウダネー。」

キッとこっちをにらみながら聞くゆかりちゃんが怖すぎて思わず棒読みで返事をしてしまった…。え、こわ…。
ゆかりちゃんの真っ直ぐさは尊敬するけど、こればかりは人によると思うな…。
だから私は湊の態度にはちょっと納得するよ…。
親友とか近しい人の事なら慌てるだろうね。さっき私が直面して取り乱したみたいに。
…まぁ、あれは単なる八つ当たりになってしまったけど…。

顔見知りとか数回話した程度。
しかも他クラスの子に対してめちゃくちゃ関心持てるかって言われたらどちらかと言えば持てないよね。誰にでも平等な正義のヒーローやってる訳じゃあないし、ね。


「下校後、作戦室に集合だ。そこで今後の対応について説明する。」
「分かりました…」
「りょーかいですー。」

渋々といった感じに引き下がったゆかりちゃんはまだ何か言いたそうだったが、桐条先輩が止めに入ったおかげで保留になった。

「え、何、作戦室って…。あんたたち一体…」
「あー…まぁ、こっちにも色々事情がありまして。」
「ハァ…?」
「何としても山岸風花を救出する。恐らく彼女はまだこの学園から出ていない。」


森山さんは私たちの話に置いてけぼりをくらってぽかんとした表情を浮かべた。
話しについて行けなくなってることだけは分かる。
いきなり自分以外の人たちが影時間が〜とか作戦室が〜とか中二病みたいだもんね…。
森山さんがいないところでその話しをしようよ…。



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