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6月6日
昨日、先輩達と夕飯を食べた後に湊たちが帰ってきた。
そして私が先に帰ってからの新情報を聞いた。
曰く、無気力症になった子達はポートアイランド駅の裏で怪しい人たちとつるんでいた、とのことだった。
不良のたまり場になっている場所に向かうことについて先輩たちはいい顔をしなかったけれど、今持っている情報で行ける場所は駅裏だけ…無気力症と関係があるかは分からないが、ダメもとで他に情報がないか確認の為に行く、とゆかりちゃんが押し切っていた。幽霊が怖いゆかりちゃんは不良には強気で順平君は不良が苦手なようでへっぴり腰だし、まったくの正反対状態。
湊は通常運転で興味なさそう。
とりあえず私も着いていく方向で話は纏まり、日も沈み月が顔を出した午後9時。



ポートアイランド駅裏


制服姿で歩いていたら周りの不良たちからじろじろ見られ、野次が飛び交う。


「お前らさぁ、遊ぶとこまちがえてんじゃねーの?」
「てめーらみたいなの来っとシラケんだろ。帰れよ、ヒゲ男君。」
絡まれてタジタジな順平君をしり目にゆかりちゃんは強気に言い返す。
「ここに来るのになんであんたらの許可がいるわけ?」
「っお前あれか!空気読み人知らずかッ!」
慌てて順平君がゆかりちゃんを小声でたしなめるが冷たい目で一蹴されていた。
「ゆかりちゃん、情報聞きに来たんだよね?喧嘩売るのはやめようよ…」
「向こうが売ってこなきゃ私だって売らないわよ。」

あぁ、ゆかりちゃんは正義感が強いからこういうタイプの人達とは合わないんだなぁ。とりあえずあの人達以外の誰でもいいから何か話を聞かなければ…。
口を開こうとした横で湊がすでに鼻と耳をピアスで繋いでいた不良に絡まれていた。

「おめーもなんか言えよ。」
「…偉いな。」
「あ?」
「鼻落とさない様に鎖で繋いでる。」



ブルータス!!お前もか!!なんで!喧嘩を!売るの!!



「ちょっ、湊!?」



湊を止めた時にはもう遅く、殴りかかられていた。
相手は喧嘩慣れしていたようで、右ストレートからの裏拳、蹴り上げを流れるように行っていたが、湊も戦闘慣れをしているのでただでやられるはずもなく、すべて避けきった。
避けた湊の後ろに順平君が丁度立っていて、湊が避けた際に拳を受けてしまった。

「ぐっ…」
「順平君大丈夫!?吐き気とか頭揺れてたりとかしてない!?」
「あ、ごめん。」
「へ、平気だ…」

え、顎に当たってたしヘタすりゃ脳震盪コースなんだけど…順平君がタフネスでよかったと心から思ったよ…周りも殴り合いの空気に触発されてか私たちを囲い始めた。
湊は私とゆかりちゃんを背でかばうように下がり、あと数歩動かれれば袋叩きに合いそうだったが、奥から声が聞こえてきた。



「その辺でいいだろ。」



コツコツと革靴の音を響かせながらこの初夏にニット帽をかぶり、Pコートをきっちり着込んだ見るからに暑そうながっきー先輩が歩いてきた。

「知らねェーで来たんだ。俺が追い出す。いいだろそれで。」
「今更そんなんで済むかよ!てめーもやんぞコラァ!!」

間に入ってくれたがっきー先輩が絡まれだした。
こういう輩は一度頭に血が上ると見境が無くなるなぁ…さて、どうやってやりすごそうか。なんて1,2秒ほど思考しているとがっきー先輩が相手を頭突きで昏倒させていた。
もろ入ってる…い、痛そ〜〜。
そうして周りの不良たちは倒れた仲間を回収して去って行った。

「…結局情報まともに聞けてないじゃんよ…どーすんの?」
「馬鹿野郎が…帰れ。お前らの来るところじゃねぇ。」
「待って!ごめんなさい…でも、私たち知りたい事があって来たんです。」
「例の怪談のことか。」
「え?なんで分かったんですか?」
「その制服見りゃ分かる。病院送りになった女どもがその辺にたむろって毎日話してた。…山岸って同級生をいじってるってな。」
「っ…そか。いじめにあってたんか…」
「……帰る。」
「晴……」
「おい、村木。お前、知ってたんじゃないのか?」
「私が?何を?風花ちゃんがいじめにあってたことですか?それとも、風花ちゃんが実はもう死んでて怨霊になって彼女たちを無気力症にしたって噂話ですか?」
「…よく知ってんじゃねーか。」
「「えっ!?」」
「お前らは知らなかったみたいだな…。もう一週間かそこら家にも戻ってねえって話だ。」
「そりゃ風花ちゃんの友達なんだから色々情報収集してるに決まってるじゃないですか。」
「ってか、なんで村木以外のおまえらは学校行ってんのに知らねぇんだ?」
「で、でも確か病気で休んでるって…」
「…そうか。俺が知ってんのはそれだけだ。もう、いいか?」


最後にそう言い放ってがっきー先輩は私たちの前から去って行った。
私たちも今日これ以上の収穫は望めそうにないと寮へ帰ることになった。







―――はずなんだけど…、現在なぜか湊に腕を引かれ、湊の自室でなぜか「正座」と一言ぽつりと言い放たれ、逆らえない雰囲気になっているでおまんがな…ナゼナゼネーゼ?なんて自分の心の中でふざけながらとりあえず素直に正座をする。


「あのアラガキさんって人知り合いなの?」
「エっ、気にするとこそこなんだ。」
「順番に気になる事は聞いていくことにした。」
「なるほど?合理的だね?」
「いいから答えて。」
「知り合いだよ。私的にはお友達って認識でいるけど。」
「そう。山岸がいじめられてたっていう情報は?」
「知ってたかって質問なら答えはイエスだよ。」
「…行方不明になってたっていうのは?」
「それもイエス、かな。最近連絡つかないし、見かけないし。よく行ってた本の虫って本屋のおじいちゃんたちにも聞いたけど顔出してないって言ってたから。」
「どうしてそれを俺たちに言わなかったの…?」
「聞かれなかったから。それに、言っても湊は興味ないでしょう?」
「…」
「それと、今夜の情報収集は倒れてたE組の女子2人についてで風花ちゃんのことじゃ無かったし…今回のことと風花ちゃんのいじめ問題は関係ないと思ってたの。だから言わなかった。…実際は彼女たちがいじめの犯人だったみたいだけど。」
「本当に知らなかったの?」
「何を?」
「…他に知ってる事があるなら教えてよ。晴。」
「…E組担任のクソ教師は風花ちゃんが行方不明っていう事実を学校側に隠して体調不良として報告をあげてるから学校は知らないこと。」
「晴がここ最近元気無かったりイライラしてたのはそれが原因?」
「そうだね。私は風花ちゃんと1年の時に仲良くなって今もポツポツ連絡を取り合ってるよ。けど、風花ちゃんは私に自分が嫌がらせをされてたり、いじめられてるってことは相談してこなかった。私も踏み込んで風花ちゃんを問い詰めなかった。それは後悔してる。…こんなところかなぁ…情緒不安定でごめんね。不愉快だったでしょう?」
「俺も晴がイライラしてることとか分かってたけど、聞かなかったから。おあいこでしょ。俺も晴も相手に甘えてたんだね。口に出して言わないと分からない事だらけなのにね。」
「そうだね。……ごめんね…」











本当のことを私はまだ言えない。



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