6月5日
月曜から携帯はやっぱり繋がらない。
とりあえず休み時間や放課後の度にE組に足を運んでいる順平君と、それに付き合っている湊は疲れ気味だ。
私も毎日放課後に電話を一本入れているだけ…物語上大丈夫、と分かっているけれど未来を分かっていて黙っている現状…これって本当にいいのかな…。
あまりにもうろ覚えだけど、まったく記憶が無いってわけでもないのに…もやもやする…
罪悪感に押し潰されそう。
黙ってたことについて責められるのが怖い。
友達なのに信用してないとか信頼してないとかそういう次元の話じゃないし、誰にどんな過去があったとか知られてるのって普通に考えて怖くない?私だったら怖い。
なんで知ってるのって…未来を断片的にも知っていてどうして教えてくれなかったのかって言われたら…
悶々と負のスパイラルに陥っていたら、順平君と湊の声で現実に引き戻された。
「いねーなぁ…山岸風花」
「もー帰っていい?」
「せ、せっかくの女子新メンバーだぞ!簡単に諦めんなよ!ほら!晴も湊にやる気出せって言えって!」
「あー…うん、そうね…」
「おっまえら二人してさぁ…あ、ねぇねぇ。山岸さんってもう帰っちゃった?」
「え?山岸さんなら先週から休んでるよ?体調不良で」
「え?まじ?」
「ごめん私気分悪いから、先に帰るね…ごめん」
「えっ、ちょっ晴っち!?」
「晴…?」
ふらっとそこから離脱をして先に帰路につくことにした。今日はこれ以上考えたくない…
巌戸台分寮
寮の玄関を静かに開けると奥のダイニングスペースに真田先輩がいた。気づかれる前に部屋に帰りたかったが目が合ってしまって無理そうだった。
「村木おかえり」
「…ただいま、戻りました」
「随分固い言い方だな。同じ寮に住んでるんだ。もっと気楽に接してくれて構わないぞ?」
「はぁ、そーですね…」
「暗いな。有里たちと一緒に帰ってきていないのか。…なにかあったのか?」
「や、私が勝手に落ち込んでるだけなので大丈夫ですよ」
「話し位ならきいてやれるぞ?ほら、そこに座れ。夕飯も食べて無さそうだし一緒にどうだ?」
「あー…や、うーん…」
「話したくなければ話さなくても構わん。ただ、飯は食え。食べれそうにないのなら俺のプロテインをやろう」
「プロテインは遠慮します。ご飯下さい……ありがとうございます先輩」
「プロテインは体にいいぞ?しっかりした筋肉を作るための」
「あー私何かおかず作りますよー!ほらほら先輩冷蔵庫の中にあるものでリクエストください!」
「そうか?なら何か探そう」
プロテインを語り始めた真田先輩を遮って鞄をダイニングの端によける。
おしゃれ飯を作る時間はないし先輩もそこまでこだわる人には見えないので簡単な野菜炒めとかになるだろうなぁ。
「お、ひき肉と玉ねぎがあったぞ。村木お前、ハンバーグは作れるか?」
ま、まじか〜微妙にめんどくさいのきたぞ〜
「…作れますよ。あとパン粉と卵と牛乳見つけて下さい」
「分かった…誰かと並んで飯を作って食べるなんて久しぶりだな」
「先輩は桐条先輩と料理したり一緒に食べたりしないんです?」
「前は料理が得意な奴がいてそんなこともあったが今は無いな。俺も美鶴もそんなに料理が得意じゃないからな」
「へぇ〜。まぁ、お二方が料理は得意じゃないっていうのはイメージ通りですねー」
「ほう、言う様になったな」
少し言い過ぎたかと思ったけど、先輩は気にしていない事を分からせるかのように不敵な笑みを浮かべていた。つられて私も笑う。
「って、先輩!タネに何入れようとしてんですか!?」
「何って、プロテインだ。入れた方が」
「良くない!良くないよ!真田先輩もう座ってて!?お願いします!」
「一体お前たちは何を騒いでいるんだ?」
「あ、桐条先輩。すいませんうるさくて」
「美鶴も食うか?村木と夕飯を作っていたんだ」
「!そうか。ふふ、ああ。私も仲間に入れてくれ」
三人でタネを成形して焼いて、真田先輩のプロテイン攻撃を防ぎながら添え物でニンジンのグラッセまで作ったりいんげんをソテーしたり真田先輩のプロテイン攻撃を防ぎ切ったりしたことを誰か褒めてくれ。
ご飯はおいしくいただきました。
悩み事が解決したわけじゃないけど、今はまだ、このまま…いつか、隠し通せなくなるその日までは……‥―――――
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