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何個も車両を移動しながら戦っていると、体力だけはバカみたいにあるはずの順平君ですら肩で息をしてる。
ペルソナを使うにも彼の場合は体力消耗型だし、回復役はまだ来ない。
どうする、考えろ。私のペルソナも回復型じゃない…考えろ…今するべき最善策。

「!順平君伏せて!!」

声をかけてすぐに奥の車両から氷の塊が飛んできた。

「うおっ!あっぶねー…」
「順平君のその反射神経羨ましいよ…」
「確かに晴っちそんなに良くないよな。この間タルタロスで段差に躓いて手ぇ間に合わなくて顔面から転んでたもんな。」
「思い出さなくていいよ!ちくしょー!」

少し肩の力抜けたかな…?
次が先頭車両だ。
順平君はもう突っ込んでいく気満々のようで得物を担ぎ直してる。

「ふぅ…さぁ、先頭に行こうか。」
「行っくぜー!」

走って駆け込んだ先にいたのは白黒半々で分かれた女型のシャドウ─プリーステス─がいた。

「って……おい、まじかよ…今までの奴等と雰囲気が…」
「冷気やば…まじか〜」
「……へっへへ、でも、こいつ倒しゃ俺だって…!」
「サポートはする。危うくなったら首根っこ引っ掴んででも撤退するからね。」
「心配いらねーよ!」

斬り込んでふっとばされつつも、飛ばされてくる氷は叩ききって、触手みたいに伸ばしてくる髪を当たらないようにいなす。
正直に言えば自分を守るので精一杯。
順平君への攻撃を私に向けるのだって本当は怖い。痛いのは嫌だ。
立ち回りだって上手い訳じゃあない。
それでも時間は稼がなきゃ。

こんなに消耗してる私と順平君だけじゃ決定打にかける…!


「くっそぉ!!…俺だって!俺だって!!」
「順平君!無駄撃ちしちゃダメだ!!」








───カチンと召喚器の撃鉄の音だけが鳴る。






「…やべぇ…燃料切れかよ…」




「順平君がって!私が前に出る!」
「なっ、晴やめろ!」

まじか嘘だろ!?と頭を抱えて叫びたい気持ちを押し殺して背にかばって立つとプリーステスが頭上で大きな氷を形成して飛ばしてきた。

「ペルソナッ!」

チシャ猫を盾にして氷を粉砕して安心しきったところに二撃目がすぐに飛んできた。
ペルソナを出そうと思っても間に合わない!
でも、背にかばってる順平君がいるから私が避けるわけにもいかない。
目をぎゅっと瞑り、痛みと衝撃に備える。






───パリンッ





凄まじい風が吹き抜けた後、砕けた音がして目を開けると氷は粉砕されていた。
振り返ればゆかりちゃんのペルソナ─イオ─が役目を終えて消える所だった。

「お前ら…!」
「順平!晴!大丈夫!?」
「ゆかりちゃんありがと!大丈夫!」

そんなやりとりの横を湊が駆け抜けてプリーステスに向かっていく。
器用に攻撃を避けてオルフェウスでダメージを蓄積させるが、相手も甘くはない。
頭上に注意を向けおろそかになった足下への攻撃に湊は対応出来なかった。

「ぐっ!」
「有里君!このっ!」
「ゆかりちゃん順平君の回復お願い!湊まだいける?」
「平気。」
「分かったわ!」

敵もバカじゃない。人数も増えてうっとおしくなったのか吹雪をおこし始めた。

「これじゃ近づけない!」
《なんとか突破してくれ。このままでは5分ももたずに衝突する!》
「そんなこと言っても!」
「おい、衝突ってなんだよ…お前らなんの話ししてんだ?」
「このままだと前の電車に衝突するらしい」
「は〜?タイムリミット付きって普通の戦闘より難しすぎません〜!?」

影時間の中は本来ならば"存在しない時間"その時間で何かが壊れれば元の時間に戻ったときに矛盾が生じる。それだけはなんとしてでも防げ。
なんて簡単に桐条先輩は言ってくれるけれど…
今の順平君の精神状態は最悪。湊は現実を淡々と告げるし、ゆかりちゃんも焦りが顔に出まくってる。私も体力的にキツイ。

「これが万事休すってやつ〜…?」
「このままだと皆死ぬ」
「嘘だろ…嘘だよなぁ…それじゃあまるで命懸けてるみてぇじゃんか…」
「ばか!今頃気付いたの?!」
「二人とも落ち着いて!焦ったってなんにもならないって!」

ゆかりちゃんが吐き捨てるように叱り飛ばすと順平君は錯乱した状態で駆け出してしまった。
湊がハッとなにか思い出したかのように順平君へ手を伸ばす。

ダメ。無鉄砲に突っ込んでも死ぬだけ…!

私も精一杯伸ばしたが届かず、湊が順平君の腕を掴んで止めた。
そのまま順平君を後ろへ追いやると前に出て召喚器を構えて静かに呼んだ。



「──ジャックフロスト」


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