山深い森の中、開けた空間に二つの影があった。
 一つは鋭く身構えて対峙しており、一つは地に倒れている。

 「…〜っ、また負けた!」

 鷹は地面から飛び起き、犬のように首を振った。
 鷲は構えを解くと、服に付いている砂埃を払い始めた。

 「もう少しだった。惜しかったね、イン」

 そう言ったが、鷹は何も言わず、一瞥を送っただけだった。
 鷲は更に言葉を掛けようとしたが、鷹はそっぽを向いた。
 鷹は石の上に膝を抱えて座ると、腕の中に顔を埋めた。

 「…チウは何でも知ってるし、組み打ちも俺より強い。それにくらべて…」

 そこで言葉を切ると、握っている手に力が籠った。

 「…俺は何も持っていない」

 頬を膨らませながら呟いた。
 その様子を鷲はじっと見つめついた。

 「そんなこと、ないよ」

 ゆっくりと首を振る。

 「インは僕にないものを、いっぱい持ってる」

 言うと鷲は微笑んだ。その瞳が、僅かに憂いを帯びているように思えた。自分とは異なる、別のものを見ている。そんな気がした。
 鷹は何故だか見ていられなくなり、思わず顔を背けた。

 「…じゃあ俺にあってチウに無いもの、何?」
 「自分で考えてみて。今分からなくても、いつかきっと分かるから」

 鷲が小さく笑う。
 その様子がどこか大人びたように見え、鷹は無性に腹が立った。

 「…くそっ、もう一回勝負だ!」

 鷹は勢いよく立ち上がると、その場から少し離れた。

 「…まだやるの?」
「やると言ったらやる!早くしろ、チウ!」

 ひとしきり怒鳴ると素早く身構えた。躍起になっている彼を見て、自然と可笑しさが込み上がる。

 「…仕方ないなぁ」

 鷲が笑ったのとほぼ同時に、二つの影が宙を舞った。





 チウ!もう一回、もう一回だ!

 もう帰らないと、
 朱華が心配するよ?

 だから、また明日





 明くる日



 ***

 幼少期。鷲は昔から非凡でした。
 鷹はやたらと負けず嫌いだったらいい。

 


   
 

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