乱れきったシーツからのたのたと這い出る。裸足をぶらりと床に垂らし、ベッドから降り立った。
被っていたのは布団一枚、とりあえずと身に付けていたのもシャツ一枚。冬の夜を眠るには間違いなく無防備だ。しかし凍えてしまうような格好でも安眠できたのは、室内が温かいからだ。自分がいつも寝床にしているあの洞窟とは、天と地ほどの差がある。レッドは複雑な表情で空調機器を見やった。部屋を一定の気温に保つ空調からは温かい風が流れ出し、カーテンを小さく靡かせている。単調で清潔感のある白い窓辺。靡く度に生まれる小さな隙間から差し込まれる朝陽は鋭い。はて、今は何時なのだろう。
ベッドの枕元にある目覚ましに手をかける。鳴らないベルを撫でて、針が指し示す時間に目を凝らす。
思わず、目を見張った。
「……、グリーン起きて」
時計を投げ出し、再びベッドに舞い戻る。先ほどまで枕を共にしていた相手を揺り動かした。
「今日ジム早く行くんでしょ、もう時間だよ」
昨晩褥に就く前に言っていた。明日は会議を開くため早くに出なければならないから、今夜はあんまり張り切らないで軽めにしておこうか。…だとかなんとか、実際はそう言って散々な目をくらわせてくれたが。しかしその言葉は嘘だったけれど、ジムに行かなければならないのは本当だ。グリーンは本来今この時、さっさと身支度をしなければならない。
しかしどうやら、彼はまだ夢の世界に浸りきっているらしい。グリーンは薄い布を顔まですっぽりと引き上げて、穏やかな寝息を立てる。
「起きろ」
レッドは渾身の力をもって揺さぶる。その強さ、マグニチュード7ばりの荒々しさである。朝から地震に見舞われたグリーンは、魘されながら、やっと重い瞼を瞬かせた。
そして朝の第一声。
「………まだねみぃ」
そして再び閉じようとする瞼をレッドは叩き起こす。
「起きろって」
「…眠いんだよ」
「……寝坊するったら」
「知らねー」
グリーンは夢うつつな眼でレッドを見上げる。未だ覚醒しきらない瞳は、まるで座りきっている。
「何でレッドは起きてんだよ」
不機嫌そうな調子だ。
「は…グリーンが寝坊するから起こしてるんだ」
「じゃあレッドも一緒に寝ちまえばいーじゃん」
グリーンはベッドの上に立つレッドの腰をぎゅっと抱く。そのままなし崩しに押し倒した。小さく軋んだベッドに揃って埋もれると、まるで昨夜を彷彿とさせるようでどきりとする。レッドは慌てて身を起こそうとした。
「寝ろって」
すかさずグリーンはそこを押さえ込む。少し苛立たしげな声色に、レッドは眉をひそめる。通常の言動から推測されるグリーンなら、時間が迫っているとなれば素直に動き出すはず。なのに今のグリーンときたら、だらだらと睡眠から離れようとしない。――あぁ、そういえばこいつ、朝に弱いんだった。
「……寝ぼけてるでしょグリーン」
「全然?俺超覚めてっから、マジ…」
「……嘘言え」
「そんなんより、お前も寝ろよ」
グリーンは一心にレッドを引きずり込もうとするばかりで、正気を覚ましそうにない。寝ぼけ眼に対峙して、レッドは嘆息した。
「ね、グリーン」
しなだれかかる腕を抱き止めて、首元に頬を寄せる。
「あと3秒で起きたらさ一発抜いてからジムに行かせてあげる」
 さて彼が目を覚ますまで、あとスリーカウント。いや、1とコンマ半といったところか。ベッドを抜け出したら、目覚ましにブラックが飲みたいなぁ。調子を取り戻させるために、グリーンに淹れさせようか。様々な予定に備えて、レッドはそっと唇を鳴らした。





朝陽の合間に





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