絡めた指先から熱が伝わる。ぎゅっと重ね合わせた掌同士の隙間には冷たい風の入り込む予断は少しもなくて、ぴったりとくっついていられる幸せだけが生まれる。やわらかな体温は確かなぬくもりを与えてくれる。
「寒いのって、好きです」
ふと漏れた本心だった。
けれど隣に立つ先輩は丁寧にも拾ってくれて、さらに感想までくれた。
「俺は、別に…」
随分素っ気ない、と眉が下がるようなものだったけれど。
「えー…そうなんですか?レッドさんがいつもいるシロガネ山なんて、ここよりずっと寒いじゃないですか」
立ち入りが制限されるほどの困窮した土地が、レッドさんのホームグラウンドだ。彼は夏場のような格好で吹雪に立ち尽くす。
「まぁね」
「寒いの嫌いなのに、いるんですか?」
「嫌いだからいる」
しれっと口にするレッドさんは、相変わらず読めない。基本的に内心は計り知れない。――どうやら少し人見知りをすることもあるらしいレッドさんは、他人との接触を嫌う。見知らぬ人に愛想は無く、心的なテリトリーを侵害されると不快感を示す。なのに、こうして俺と手をつないでいても、振り払ったりしない。よく、分からない。けれどなんとなく、これだけは分かる。レッドさんが俺の手を振り払わないでいてくれるということが、どういうことなのか。
「…あ、ほら息が白いですよ」
「……寒いからね」
「それはそうなんですけど」
 灰色の雲が張り付いた冬空は凍りついたみたいに動かない。木々は枯れたように枝を鳴らす。カタカタとぶつかり合う長い枝は哀れっぽかった。どこもかしこも、寂しい。出し尽くした後の反動。蓄えるための静かな呼吸。冬はエネルギーに極めて乏しい季節だと思う。収斂して収縮した冷ややかさが激しい。
けれど生命の奔流を感じない分、今ここにある密やかなあたたかさに敏感になれる。寒さの中にぽつんと灯るぬくもりは、その熱を浮き彫りにしていとおしくなる。
冬は見えないものが見えるようになる季節だ。たとえばこの、つい吐き出した呼吸のように。
「やっぱり俺は冬好きですよ」
「何で」と視線を寄越したレッドさんに、笑った。
だってほら、思わず漏れた吐息が視界に浮かぶでしょう。幸せが目に見えるみたいじゃないですか。





目に見える、形のないもの





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