死んでしまったらどうなるのか。誰だって一度は考えるテーマだと思う。
 俺だって勿論考えた。
死んだらどこへ行くのか、周りのみんなはどうなるのか、俺の意識はどこへ向かうのか。
 結論はすぐに出た。
俺は死んだことがないから分からない、という結論だった。
 けれど、理解を含む結論は出なくても推測や想像は自由に出来た。多分俺は、死んだらそこでおしまいなんだろうと考えた。意識なんて無くなって、自分を認識することも出来ない無に還ってしまうのではないだろうか、と。そして、そうしたらどうなるか。俺は続けて考えた。きっと、誰か悲しんでくれるかもしれない。大切な相棒達、母さんに博士、ナナミさんとか、後は誰かな、そう、グリーン……は、悲しんでくれるだろうか。どうだろう、グリーンは俺のことライバルだと言っていたから、俺というライバルがいなくなったら勝ったと言って喜ぶかもしれない。それは、少し、寂しいと思う。
 死んだらおしまいだ。バトルは出来ないし、誰にも会えないし、会えないみんなは俺の意識の及ばないところで悲しむのかもしれない。そう思うと、死ぬというのは悲しくて怖くてたまらなかった。
俺は死にたくなかった。
それでも、

「――っ!」

 雪に足を取られたピカチュウが、絶壁から空へ身を放たれる。落ちていく。
――迷わなかった。
俺は間髪いれずにピカチュウの跡を追い、崖の淵を蹴った。モンスターボールを投げる。ピカチュウがボールへ吸い込まれたのを見てから、俺はそのボールをぎゅっと抱き締めて抱え込んだ。
浮遊感ともつかない、寒気の走る落下感が俺を突き抜ける。地面は遠い。空は、もっと遠い。俺はこのまま、落ちて、死ぬだろう。それは推測ではなく事実として俺にするりと滑り込んだ結論だった。いくら下は積雪と言っても、今までに落ちたこともない高さの崖だったから。
俺は死にたくなかった。
でも、ここでピカチュウを助けなかったら。俺は助かって、ピカチュウが死んだら。そうしたら、俺はどうしたらいいか分からない。だったら、死ぬとしてもピカチュウを助ける。それでよかった。痛いほどに吹き付ける雪と風に打たれながら、落ちながら、俺は空をみていた。
 ピカチュウ、怪我をしていないといいな。洞窟でモンスターボールに入ったままの皆は、大丈夫だろうか。母さんや今まで会った皆、会いに行かなくてごめん。もう会いに行けなくてごめん。
それとグリーン、少しは悲しんでくれたら、俺はとても嬉しい。満足だよ。
灰色の空に、俺は笑った。

――そうして、意識を真っ暗にした。





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テーマ「人外ファンタジー」
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