一歩歩く間に三歩。二歩歩く間に五歩。少しずつ少しずつ、歩数の差は開いていく。長い長い階段というものは、脚力の違いをまざまざと見せつけるための設備なのだろうか。そう思わせしめるだけの距離だ。
先を歩いていたワタルは振り返った。
「合わせようか」
「………」
数段下を歩いていたレッドは、「何が」とばかりに仏頂面をしていた。
「レッド君、さっきから無理しているだろう」
「してない」
「言ってくれていいんだよ。いくら君が立派なトレーナーであっても、身体は子どものものだ」
「してないものは、してない」
「君はそう答えるだろうと思って、何も言わないでおいたんだけれどね」
リーグの中にある練習用バトルスタジアムでバトルをしていた、ワタルとレッド。数時間に及ぶ勝ち抜き形式のシングルバトル、3vs3、ダブルバトル、諸々を飽きずに繰り返す。さてそろそろポケモンにも自分達にも疲労が溜まってきたから、あがろうか。そう合意してその矢先の――アクシデントだった。
リーグのエレベーターが故障してしまったのだ。
高いビルの構造となっているセキエイリーグにおいて、エレベーターは欠かせない移動手段である。ワタルが事務に連絡をとったところ、復旧までには当分時間がかかるとのこと。つまり自力で移動するしかないのだった。
バトルスタジアムから最下階までいくには、そこそこの距離がある。とはいえ十分程度で到達できるだろう。しかし、レッドの荷物は最上階にあるワタルの執務室に置いてきてしまった。戦闘や日常に及ぶあらゆる場面で必要とする荷物だ。取りに戻らなければならない。往復損だが、仕方がない。
というわけで、二人は徒歩で非常用の階段を上がっている最中だった。
「俺が嫌なんだ。君が俺に合わせて急いで階段をあがるのが」
「…気のせいじゃない?」
「そうならいいんだが、」
いくらレッドがシロガネ山でのサバイバルに慣れているといっても、それとこれとは別である。日常で使われる筋肉と運動で使われる筋肉は異なる。つまりサバイバルな起伏に慣れたレッドにとって、コンクリートの淡々とした道のりは負担が大きいということだ。
歩き初めて、実にかれこれ三十分。
普通に疲れて当然であり、ポケモンバトル直後なら尚更だ。
「おぶってあげようか」
であるからして、以上のワタルの発言は年長者なりの気遣いだったのだが。
「馬鹿にするな」
レッドはぴしゃりと撥ね付けた。
ワタルは眉をしかめる。
「馬鹿になんてしていないさ。俺なりに労ったつもりなんだが、お気に召さなかったかな」
「おんぶだなんて、赤ん坊みたい」
確かに。レッドはまだ幼くはあるが、おぶってもらうほど未発達なわけではない。
「…うーん、しかし他に手段がないな」
「別に他にもあるだろ」
「生憎思い浮かばないんだよ」
「じゃあ思い浮かばないままでいいんじゃない」
「…じゃあ君はなんだったら頷いてくれるのかな」
ワタルは困り果てた、とばかりにレッドに問うてみた。するとレッドは真顔でぴたりと動きを止める。おや、とワタルが思ったのも束の間。
レッドは両腕を上げて、言った。
「……お姫様だっこでもしてくれる?チャンピオン」





イエスマイディアー!





110223
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