彼はまるで夢遊病のようだった。
星空の下をふらふらと歩き出した。足取りは覚束ない。あてはなく、ただ歩く。どこかにぶつかって進めなくなるか、正気に戻るまで足を動かす。
暗くなった道は草木に蒼く繁る。ひとつ足を踏み外せば、引きずり込まれてしまいそうな暗闇だった。彼ののだらりと垂らされた腕を、また別の彼は引き留めた。
「帰ろう」
耳元で囁いた。
「帰るよ」
「そっちじゃない」
「こっちさ」
「違う」
彼は首を振った。
「明るい街じゃない。あの山だけだ」
「あそこは帰るところじゃない」
聞き入れるつもりは端からないのだろう。彼は虚ろな目をすっと彼方へ流す。
「君は帰っていいよ。俺もかえる」
「お前も一緒に帰るんだ」
「なぜ」
「好きだから」
「俺は好きじゃない」
「大切だ、愛してる」
「俺はそうでもない」
尚も前へと遠ざかる、足を止めない。後ろから羽交い締めにして抱き止める。もがくこともない。抗うこともない。抱き止められてもそのまま歩き出そうとする。
「好きなんだ」
呟く思いは届かない。声は真夜中に溶ける。星と縺れながら散った。





夜のお散歩





110222
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