赤い帽子を弄りながら、レッドは紅茶のカップを手にとった。黒革のソファに横になりながら、少しずつ喉を鳴らす。
思えばこの少年は、いつも紅茶しか飲まない。私の執務室で給仕されるのはコーヒーか紅茶かの二択だ。喉の乾きを覚えればこのどちらかを選択するしかない。私は大抵コーヒーをとるが、たまには紅茶にも傾いてみる。しかし彼は決してコーヒーには手を伸ばさない。角砂糖を山のように溶かした紅茶に口をつけるだけだった。
「お前、たまにはコーヒーでも飲まないのか」
「……飲まない」
「まだまだガキだな」
「そういう問題?」
「そういう問題だろう、甘味しか知らないようではな」
むっとしたように、レッドは眉間にシワを寄せる。
待ったくをもって、からかい甲斐のある奴だ。
「味見してみてはどうだ」
腰かけていた執務用の椅子から腰をあげる。足早に近寄れば、察したのかはっとソファから起き上がろうとした。その身体を素早く押さえつける。呆けたように「あ…」と溜め息を漏らした吐息が、実際に甘い。どれだけ砂糖を注いだのかと苦笑し、唇を押し宛てた。
息継ぎをするように薄く重ね合わせる。湯から移されたのかだろうか、いつもよりも熱を孕んでいるように思えた。吐息も漏らさぬように、隙間なく唇を重ね合わせる。下で少年の細い矮躯がひくりと身体が震えた。深くまだ若く柔らかな弾力が、ねだるように蠢く。何事にもさして動じなくなったはずの感情が戦慄く。背筋がぞくぞくとした。
ゆるやかな紅茶の香りが流れ込む。それをコーヒーの強い香りで黒く塗りつぶす。塗りつぶすように、弄ぶ。甘ったるい咥内を深い苦味で侵食すると、レッドは困窮したように喘いだ。腕を突っぱって身を離される。「どうだ」と至って平然に訊ねる。レッドは肩で小さく息をしながら「苦い」と赤い目を瞬かせた。そして一言呟く。
「コーヒーは、中毒性があるから。嫌い」
あぁ、カフェインの中毒性か。しかし、そう笑ったお前の方が、余程。
 いやはやしかし、たった一杯の飲み物にいつしか捕らわれていくなどと、誰も最初は思わないものだ。私はもう一口、カップに口をつけた。





一杯に溺れる





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