「君の首を絞める夢を見たよ」

 どこかの暗い街の暗い部屋。穏やかに揺れるカーテン。昼の光がぼんやりとしか届かないような部屋で、俺は君の首を絞めていたよ、レッド。君の首は俺の手よりずっと白かった。指先に力を込めると、君の首はまるでキスマークみたいに鬱血した。ぁ、と悲鳴にも満たない小さな声をあげてから、君は諦めたように身体を弛緩させた。俺は、ひどく冷静だったけれど、とても興奮していて、

「悲しかったよ」
「……なんで」
「レッドが俺の手で死んじゃうんだよ、悲しいことじゃないか」

 俺とレッドは別々だけど一緒みたいなものだ。レッドがいて俺がいるし、俺がいるからレッドがいる。そんなレッドを、ある意味のもう一人の俺を、夢のなかとはいえ俺は殺してしまった。俺の手によって、俺の手から指の間から、君の命が擦り抜けていった。それは、とても辛かったよ。
 俺を話を聞きながら、レッドはいつもの赤い目を、ぼんやりとさせていた。焦点を合わせず漂う視線は、何を思っているのかな。君を殺す夢を見たよ君を殺して俺は悲しかったよ、って話をされて、レッドはどう思ったんだろうね。
 そんな風に考えながらレッドを見つめていると、レッドはふいに俺を見つめ返してきた。

「どうしたのレッド」
「ファイア」
「何?」
「俺、いなくなるよ」

 レッドは赤い目を俺から逸らさずに言った。バトルをするときみたいな鋭く光を放つルビーではなく、流れ出た鮮血みたいなどろりとした赤が、俺をその中に収めて、言った。
その目があまりに冷静なのと、みたことのない感情を孕んでいるのを見て、俺は思わず平静な反応を取り損ねた。嫌でも動揺した。

「何、どうしたのレッド、俺のは夢の話であってレッドにいなくなってほしいとかそんなんじゃないから」
「違う、俺がファイアの前から消えるだけ」

何が違うんだよレッド。話が噛み合わないな…つまり、俺の前からいなくなるって言うんだろ?そんなのは嫌に決まってる。なぁ、冗談を真に受けるようなキャラだけどさ、夢を正夢にしようなんてキャラじゃないよ、レッドは。俺が縋るように問い掛けると、レッドは首を振った。

「正夢じゃない。ファイアが俺を殺すんじゃなくて、俺が自分でファイアの前から消えるんだ」
「何が言いたいのか分からないんだけれど」
「俺は、ファイアと一緒にいるべきじゃなかった」
「何それ、どういうことレッド。レッドは俺といたくなかったわけ?だからいなくなるの」
「違う」
「じゃあ、」
「古い俺は、いなくなるべきだ」

レッドは泡でも零すみたいに唇を動かした。いつもより静かで、いつもよりゆっくりと。

「レッド」

俺は震えた。レッドの血色をした目があまりに遠く、事実が目前に迫っていたから。
もう俺を殺す夢はみない、それはとても幸せな夢だ。そうレッドは言った。

「俺のいない今日は、きっと、今よりずっと素晴らしいよ。ファイア」

 そう言うと、レッドはいなくなった。
まるで空気に融解したかのように、俺と均したかのように、綺麗さっぱりいなくなってしまったのだった。




100426

BGM 炉心融解
過去の自分を殺して今の自分がいるっていう感じの、炉心公式解説から。原作とリメイクの関係。フィーリングでどうぞ
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