深く根を張りたい。掘り返そうとしても断ち切ろうとしても何度も再生するような、太く深い根を。

「知ってます?ここよりずっと遠いある地方には、ポポッコに似た花が咲いているそうですよ」
「…ポポッコ」
レッドさんはピカチュウの頭を撫でながら軽く首を傾げた。不思議そうに目を丸くした様子を俺も不思議に思ったが、すぐに納得がいった。
そういえば、レッドさんはカントーとセキエイリーグを制覇してからこのシロガネ山にこもってしまった。挑戦にやってくるトレーナーはカントー出身もジョウト出身もいるようだから、ジョウトのポケモンを知らないということはないはずだ。しかしこんなところまでやってくる屈指のトレーナーが、わざわざ手持ちにポポッコのようなポケモンを入れているとは考えられない。そうなると、主にジョウトの穏やかな地域に生息しているポポッコの存在をレッドさんが知っているはずがなかった。
「あっ、ポポッコ知りませんよね、すいません」
バックからポケモン図鑑を取り出して、ジョウト地方のカテゴリーを選択する。くるくると番号を送っていくと、ポポッコの名前が見つかった。わりかし頭の方に記述されていてよかった。緑色の体に赤い瞳、頭に付いた大きな黄色い花が特徴のポポッコ。見やすいように画面に拡大表示して、レッドさんに示す。
「ほら、これです」
レッドさんは図鑑を覗き込むと「へぇ」と呟いた。しげしげと眺めている様子からして、見たことのないポケモンを知るのが嬉しいのかもしれない。
「これがポポッコです。で、ポポッコに似ていて遠い地方に咲いている花を、たんぽぽっていうらしいですよ」
「……そうなんだ」
「このポポッコの頭の…」とん、と画面を指差す。
「こんな黄色い花が咲くらしいです」
「へぇ」
「まぁ俺もたんぽぽ見たことはないんですけどね」
「そうなの」
「なんでもイッシュよりも遠い地方らしいですから。うーん、見てみたいなぁ」
きいた話では、たんぽぽというのはとても根の強い花らしい。簡単にへし折れる細い茎と小さな花びらを重ねた黄色の綻びとは裏腹に、土の下に伸びる根っこはとても頑強だっていう。ものによっては1メートル以上も、深く根を張るのだそうだ。ふわふわと漂うポポッコと外見はにているのに、全く反対の性質を持っているものだなと思う。
一度でいいから、見てみたい。それでその長い根っこごと全てを掘り起こしてみたい。
「……じゃあ、見に行こうか」
レッドさんは突然、ぽつりと口にした。目は図鑑に合わせたまま、何でもないような口振り。
「え?」
思わず何を?と無言で訪ねる。
「たんぽぽ」
「えっレッドさん、たんぽぽは凄く遠いとこに咲いてるんですよ?船も飛行機の便も通ってない」
「ゴールド、飛べるポケモン持ってるだろ」
「でもその地方までの地図もないですよ」
「……大丈夫」
唖然とする俺に、レッドさんは少しだけ口元を緩めた。
「なんとかなるよ」
凄く適当な回答だった。けれど、力強くて確信に満ちた声だった。
それを聞いたら、なぜだろう。なんだかなんとかなるような気がしてしまった。それは口数少ないながらも実力のあるレッドさんだから成せる発言力。レッドさんとなら行けるかもしれないと、信じらさせてもらえる。

 俺はたんぽぽを一度でいいから見てみたいと思っていた。それは、レッドさんという人を知ってしまったからだった。レッドさんに、たんぽぽのような深い根を植え付けたい。掘っても掘っても抜き取れない根を張って、この人と一緒にいたい。この人の深くを知りたい。
そして最後は綿毛のように、遠くに飛んでいきたいと思っていた。勿論レッドさんと一緒に。きっと、どこまでも行けるんじゃないかなって、思って。




春風にまたがるように





110216
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -