表情、頭の中、心の底。それよりもずっとずっと奥にある、細かくてささやかで見えない形をしたもの。それによって俺達は繋がっている。
「レッド」
 ファイアの吐息はいつも甘い。何かお菓子を食べたわけでもないのだろうに、甘美でうっとりする。名前を呼ぶ声なんか、まるで猫撫で声。内に燻る熱をそっと漏らすように、小さな唇を震わせる。
二人の部屋のベッドに並んで決まってファイアは俺の上に跨がって笑った。切実に、苦しそうに、嬉しそうに、笑った。大好きだよ。絶対に離さない。ずっと一緒だからね。俺をベッドに縫い付けるように、迫る声とちょっといやらしいスキンシップを、ファイアはくれた。毎夜のように。綿菓子を食べるときみたいなふわふわとした様子で額に口付ける。まるで身体全体で飲み込むつもりかと錯誤するほど、体全てのパーツを使い触れてくる。たとえば髪を掻き上げて、耳の裏に触れる。その触れ方はとても器用で、丁寧で、人差し指は髪を絡め取っているのに、小指は生え際を撫でていたりする。そしてうなじまで流れた指先はそのまま背筋をつうっと伝う。掠めるようなのに、確かに刺激を残しながら。その後は腰を抱き寄せたり、脚を撫でられたり、いろいろだ。とにかくそんな風にして、ファイアは俺の身体中にたおやかに触れる。決して激しいものを押し付けようとはしない。戯れるように、禁断の遊びごとのように、甘ったるく繰り返す。柔く真綿にくるんで雲の上にそっと浮かせるような、ぎりぎり愛撫と言える程度の触れあい。でもそうして与えられる刺激は、何をするにしたって気持ちがいい。
もし他人に触られたら、と考える。気持ち悪いと、即座に思う。誰かが触れるのだけでも嫌だ。同じ親から同じ顔をして生まれてきた兄弟、ファイア。ファイアだけ、ファイアだからこそ触られても平気なんだろう。ファイアだから、いけないことをされても、気持ちがいい。
「レッド」
「……」
「ねぇレッド、」
「……うん」
「ねぇ俺、レッドが好きだよ。大好きなんだ」
俺達は解りあっている。共有して、分かち合っている。筋肉の緊張と弛緩が形作る表情や、信号を行き交わせる脳の回路、理論や理屈で科学される心の動きでもない。ただ単純に、細胞という基礎。単純だけれど、複雑なつくり。そのプログラムを同じくする兄弟である俺達は、誰よりも理解を深く出来る。
意思の疎通なんていらないし欲しくない。違いを自覚することも、違いを埋めようとする努力も必要ない。個性の相互意識なんて理解には邪推だ。ねぇだって、そんなのが無い方が、きっとありのままで同じ様にいられるでしょ。
「……うん、うん。ファイア」
宥めるようにして頭を撫でると、ファイアはしがみつくようにして俺に抱きついた。
愛してるったら、ねぇレッド。これ、気持ちいいかな。もっとしていいよね。もうしないほうがいいかな。好きだよ。レッドもだよね。だなんて、そんなこと。あぁもう、俺の気持ちいいとこ的確すぎるほど知っているくせに。鈍いね、ファイア。





相互誤理解





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