自分に相応しい好敵手。俺はその存在に深い憧憬を抱いていた。
ただ強いだけではならない。俺が本気を出すまでもなく倒れるようでは意味がない。俺を一度で容易く圧倒してしまうような好敵手でも駄目だ。死力を尽くし、切磋琢磨高みを目指した先の勝利が欲しかった。
又、その性格や外見も欠かすことはできない要因だと考えていた。性格は、熱く闘志を燃やし、正義感に活力溢れる人格がいい。小さな問題も見過ごせず、厄介事に首を突っ込んでは窮地に陥るようなのが最適だ。無鉄砲で、少し馬鹿といったところ。
容姿もそれに見合ったものであるべきだろう。大きく勝ち気な瞳に、明るい色で無造作に跳ねた髪などだ。肌は少年らしい健康的な色で身軽そうに逞しいものがいい。
そんな好敵手が良い。俺は常々そう考えていた。
 ――だと謂うのに、俺の好敵手は理想とは全く異なったものだった。
隙は一切なく負け無し。俺とのバトルでは、表情ひとつ変えずに勝利してしまう。冷静沈着で無口で無愛想。どんな相手に対峙しようとも、動揺のひとつも見せはしない。
外見もこれまたひどい。癖の無い黒髪は細く風に揺れる。両の目に収まる色なんて、原色よりも鮮烈な赤だった。しかもこれがまた不細工で無いというのだから、遣る瀬無い。好敵手は幽玄とした美しさを、奇妙なバランスで保っていた。
俺はそんな好敵手、欲しくはなかった。
俺に負けては大変に悔しがり、せせら笑ってやれば熱く対抗心を燃やす。けれど危機になれば俺に救われるような――そんな好敵手が欲しかったのだ。
だが理想と現実は耐え難い程に違いすぎた。
 だから俺は、そんな好敵手は消してしまうことにした。
俺はその好敵手とバトルを終えると、両の手で首を絞めた。男の癖に汚れもなく白い肌、儚いとでも言うべき体躯。冒険をするには似つかわしくないと思っていた。だから、苦しげに血の気を失っていく様子は、俺の胸の内を明るくした。
酸欠から朦朧とした様子の好敵手を桟橋から突き落とす。柳のように軽い身体は難なく宙に投げ出された。ばしゃん。水飛沫は大きく跳ね上がった。
好敵手は水底から浮かんでこなかった。



 それから長い長い時を経て、俺には再び好敵手が出来た。
この度の好敵手は上出来だった。
からかってやれば対抗心を示し、隠しきれない闘志を燃やす。バトルをすれば勝ったり負けたり、拮抗し張り合う。外見も文句なし。少年らしい血色の良い肌色に、身軽そうな体つき。明るい鳶色の髪は外側に向かって陽気に跳ねていて、少し朱色がかった茶色の瞳は強い意思に輝いていた。

「あぁ、危なかった」

お互いの全力を尽くしたバトルは、自然と汗を滲ませる。好敵手は汗を拭いながら俺に笑顔を向けた。屈託の無い朗らかな表情だ。

「もう少しで負けるところだった。さすが強いなぁ」
「まぁな。まぁ、この俺に勝てるお前も、少しは誉めてやってもいいぜ」
「はは、次も勝つよ」

好敵手はにこりと笑った。「それはどうかな」と俺が笑うと、目付きを燃えるような輝きに変える。

「俺はライバルとして、全力を尽くすよ」

そう言い放つ姿は、まさに健闘する好敵手の姿そのものだった。俺は満足してこっそりと頷く。
――さてとりあえず、バトルで傷付いたポケモンを回復させなければ。バトルをしていた橋の前から立ち去ろうとする。しかし、なぜか好敵手はその場から動こうとしなかった。「どうした?」声をかけても、反応がない。彼も手持ちを負傷させているのに、ポケモンセンターへ行かないのだろうか。何かあったのだろうかと、顔を覗こうかとする。
すると、突然ふらりと足を踏み出した。
しかしポケモンセンターではなく、その反対の方へと歩き出す。そしてハナダシティ名所の金の桟橋、その低めの手摺に凭れるように触れている。朱色の視線は、川の水面にひた向いていた。

「ねぇ、だからさ」

好敵手はゆっくりと俺を振り替える。
 それは、俺に相応しい好敵手の、朱色がちな柔らかい瞳ではなかった。闘志の輝く様な、閃光を称えた眼差しではない。
"ソイツ"は、声色をがらりと変えて――言った。


「…今度は殺さないでね、グリーン」


凍てついた赤い瞳だった。





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