手に嵌めているハーフグローブをぐい、と歯で引く。犬歯をちらりと見せる無表情。何てこと無いように行われた仕草が、何でかやけにかっこいい。そしてそれが悔しくて仕方ない。
 ぼんやりとした目付きに少ない口数。ポケモンバトルは忌々しいながらも最強だけど、それ以外にはてんで取り柄のない奴。それが俺の知る限りのレッドだったはずだ。
それなのに今俺の目の前にいるレッドときたら、――とんだ男前だ。
帽子の影になっているはずの真っ赤な瞳は、ぎらぎらとナイフのように鋭く輝いてる。滲む汗が黒髪を頬に這わせて、それをレッドはおざなりに指先で掻きあげる。軽く暴くように反らされた首筋の白いラインが眩しいのに、部屋は暗くて、何だか咎められている気分になる。俺はなんだかぞくりとしてしまう。
 レッドが手のひらをついた、俺のすぐ耳元でベッドのスプリングが軋む。何をするつもりなんだ。分からずにこちらは横たわる。それなのに丁寧な動作が、かえって焦らし遊ばれているように感じてしまう。眠り姫ってのは今の俺のような気分だったのだろうか。レッドはマントを翻すように躊躇いなく、覆い被さるその身をぐっと詰めて微笑んだ。

「………知ってるよ」

何もかも悟ったかの様な穏やかな表情が、どきどきと心臓を不安にさせる。殺されそうだ。
思わず「な、何をだよ」とどもってしまうと、レッドは人差し指をそっと――俺の唇に押し当てる。

「グリーンは、俺のことを好き」
「〜〜〜っ?!な?!」
「俺は鈍い奴じゃないし、グリーンの視線分かりやすい」
「お、まえ、っ」
「知ってるよ。グリーン、俺のことずっと見てたよね………旅の間も、旅が終わってからも」

レッドは不敵に唇を歪めて笑う。

「……本当は、ちゃんと段階踏もうと思ってた。君が気持ちに踏ん切りつけてくれるまで」

でもね、と赤い瞳を眇る。

「あんまりずっと見つめるものだから、
途中で抱きたくなった」

そう言うとレッドは添えた人差し指とは反対の手で、俺の下肢に触れた。ベルトのバックルを焦らすように軽く撫でながら、俺の中心をやんわりと押す。

「あ、」

身体が硬直してしまって、呼吸さえ詰まる。酸素が薄いわけでもないのに浅い呼吸を繰り返した。混乱した果てに、レッドの指先が触れる先を、見つめてしまう。レッドはバックルを手慣れた風に外すと、俺のズボンをさっと下ろした。躊躇いもなく下着の中へ手を這わせる。掌で包み込むように触れて、あやすように擦る。
するりと入り込んできた鋭い感覚に思わず震えた。
一段と鳴いたスプリングが、行為の生々しさを予兆させて深くたわんだ。
汗が滲む。

「ぁ……レッ、ド!」

俺は咄嗟に抵抗した。
心の準備なんて出来てなかった。渾身の力で両腕を突っ張り、密着していたレッドを押し戻す。
レッドは特に驚いた様子もなく上半身を起こした。上着を脱いだタンクトップの半身が、しなやかに背筋を伸ばした。

「………別に俺はいいよ、止めても」
「レッ…」
「嫌がってるなら、無理矢理なんてしない。……でも、」

見つめる視線がただの恋心しか孕んでいなかったのなら、俺はこんなことしなかったよ。ねぇ、でもさ。グリーン。――囁く低い声が、体の中心に響く。
あぁ、分かってるさ。お前が分かってるだろうなってことも分かっていて、それでも抵抗したんだ。だってそうでなくちゃ、俺が馬鹿みたいだ。お前のこと追っかけて、ポケモンバトルで勝てなくて。それでも追いかけて、その果てにある行為でも、俺は。

「グリーン、期待してたでしょ」

 レッドは再び上半身を俺に被せるように倒した。睫毛さえ重なる距離で、レッドは静かに口をつけてくる。硬く結んだ俺の唇をそっと食んで、答えを待つように停止した。
脅すだけ脅かして、煽るだけ煽って、最後の決めては相手の出方を待つのか。最強のトレーナー様らしい強かなやり方だ。そして俺はそんなレッドに勝ったことなんて、一度も無い。

「卑怯者」

噛みつくみたいにキスをし返して、舌を絡ませて――負け惜しみしか、言えなかった。





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