橙色の提灯に灯籠がぼやぼやとまたたく。その光を吸い込むたびに、グリーンの髪の毛は澄んだ光のように輝いた。足音をまあるく反響させる石畳を、グリーンは髪も制服の裾も悠然と揺らしながら歩いていく。レッドはそのグリーンの半歩程後ろに付いて歩いていた。神社の懐で催されている夏祭りは、目眩がしそうなほどのたっぷりとした人出に溢れる。ざわざわと込み合う人混みの中で覚束なげに歩くレッドは、人波を掻き分けていくグリーンを何度も見上げた。ときどき見えるグリーンの横顔はテレビの向こう側にでもいるかのように整っている。見る度にふと見とれてしまって、その度に恥ずかしくなった。それでばっと視線を下に移す。すると、今度はグリーンのしっかりとした指に丁寧に絡められた自分の手が映った。
どこをとってもかっこいいんだ、グリーンは。レッドはそう思っては、情けなく弛んでしまいそうな顔を堪えた。

「な、レッド」

そんなレッドを余所に、グリーンはさわやかに笑って振り返る。

「あれ買おうぜ」

グリーンはレッドの手を握っていない右手の方で屋台のひとつを指差す。ずらあっと軒を並べる屋台の中にあるその一軒は、りんご飴を売っていた。

「………うん」
「よし」

小さく頷いたレッドに、グリーンは満足そうに大きく頷く。そのまま何の不手際もなく屋台に向かおうとした――ので、レッドは慌てた。咄嗟にグリーンの左手を両手でぎゅっと握り、踵でブレーキをかける。
くんっと止められたグリーンが驚いたように目を軽く開いた。

「どーしたレッド」
「………手」
「手?」

レッドはグリーンに握られていない左手で、グリーンの手首をぱたぱたと叩く。

「………屋台行くのに、手……放して」
「あぁ、んなことか?気にすんなよ」
「……人いっぱいいるよ」
「今更だろ。逆にたくさんいるから、手繋いでたってバレねーんだ。屋台だって平気」

グリーンはふっと口で弧を描くと、自分の手にぴったりとくっついているレッドの両手を引き寄せる。
レッドの白い右手の甲に、そっと唇を宛がった。

「俺はレッドと手繋いでたいし」


レッドは口を開いて、閉じて、また開く。
それでも真っ赤になりはしたものの振り払わないレッドだったから、グリーンは何事もなかったように屋台へと足を踏み出した。




 りんご飴を皮切りに、綿飴、杏飴、かき氷、ベビーカステラ、チョコバナナ。甘いものばかりではあったがそれなりに多くを購入したので、二人はどこかへ腰をおろそうとした。
賑わいの衰えない屋台の通りから少し離れ、神木やらが立ち並ぶような木々のあたりに落ち着く。同じように休みを取ろうとしたような人影がちらほらと見られたが、そう周囲にいるのではない。それぞれの人影は木陰などの下にいるので、周囲の視線といったものとは縁が無くなったことに安心したらしい。遠くにお囃子が軽やかに響くのを耳にしながら、レッドはりんご飴に口をつけた。
姫りんごにコーティングされた飴はひたすらに甘いので、レッドは少々ゆっくりと端を小さく噛む。グリーンはかき氷を口に含んだ。

「でもあれだな…今日、来てよかったな」

"でも"とはどういう意味だろうと、レッドは首を傾げる。グリーンは「ほらさ」とストローの先を軽く振った。

「これが最後だろ、多分。今年遊ぶのなんてさ」
「……………あぁ、」

振ったストローの先に付着していた小さな氷の欠片が、ぴっと小さく跳ねる。じんわりと汗を滲ませるグリーンの制服のシャツに飛沫して、消えた。
 今日の夏祭りに来たのは、模擬試験の帰りにだった。通っている学校から少し離れた場所にある模擬試験会場で、どこからか夏祭りがあるとの話を耳にしたグリーンがレッドを引っ張っていった。自己採点しないのと咎めたさそうにしていたレッドを存ぜぬとばかりグリーンはに強引に進めた。勿論、レッドが嫌がってはいないのを知っていたからだ。

「夏が終われば、受験忙しくなるよな」
「…………」

がり、とりんご飴が音を立てる。からからと口の中で転がしながら、レッドはほんの少しだけ俯いた。

「遊んだりできねーし」
「…………」
「俺とお前文系理系で分かれてるし、会えないな」
「…………」
「まぁ、受験生の運命だよなー」
「…………うん」

がり、と一際大きく欠けた赤い飴を、レッドは黙々と舐める。
受験が佳境を迎えれば、今のように二人で会ったり出来ない。登下校くらいは、とか考えるけれど、"友達"として動くのがいっぱいいっぱいだろう。男同士だなんて条件つきのカップルだから、十分な配慮が必要なのだ。それは二人とも当然のように理解している。でもレッドが気を落とす理由はそれではなかった。

「……ねぇ」
「ん?」
「……ら、………」

受験が終わって進路が分かれても、来年も一緒に夏祭りに来てくれる?レッドはそうききたかったのを躊躇って、飲み込んだ。
 するとグリーンは手に持っていたかき氷を地面に置くと、そっと右手をレッドの頬に添える。
ふっとグリーンが笑う、その顔に神木から零れる月明かりが差す。二人の顔にかかるやらわかい影がひとつにゆっくりと重なった。焦れるように離れて、グリーンは右手をするりとすべらせる。

「この味、覚えてるから」

だから来年また、味あわせてくれよ。グリーンはちらと舌を示す。レッドの口の中にあったりんご飴の欠片が、唾液に濡れて夜風に照った。嬉しさばかりで再び赤くなったレッドの顔がまるで飴のようで、グリーンはもう一度口付けた。





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7000Hit玲様
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