タマムシシティにあるデパートは、冷蔵庫やベッドといった日常品をはじめポケモン用の服飾ボタンのひとつまで揃う、大規模な店舗だ。その客層は大変幅広い。今晩の夕食を求めに来た親子連れから、ショッピングを楽しむ若者が笑いながら闊歩する。また道幅がたっぷりと取られた店内ではポケモンを連れ歩くことも可能であり、トレーナーやブリーダーなどのポケモン関連の職を持つような人々も見受けられた。
その中で4人固まって歩くレッド達もまた、タマムシデパートの客の一組だった。レッドは肩にピカチュウを、グリーンは傍らにウインディ、ゴールドの後ろにはバクフーンが付き、シルバーはニューラを一歩後らせて、それぞれ連れ歩いていた。それぞれ異なったポケモンを連れ歩く年頃の少年達。特にあてもないのだろうか、ウィンドウショッピングでもするかのようにあちらこちらに視線を移ろわせては、会話に興じている。その面立ちがそれぞれ趣は異なりながらも整っているという点を除けば、彼らは普通の仲の良い若者の様に見えた。――勿論、見えるだけであるが。
 ブランド品店が立ち並ぶ通路で、レッドは不意に立ち止まる。レッドが目を止めたらしい店舗、そこはポケモンとトレーナーがペアルックを楽しむことが出来ると話題の、アクセサリーショップだった。男女問わず受け入れられるような爽やかな店内。BGMはポケモンにも好まれるようなテンポのよいものが流れている。レッドはそこへふらりと足を立ち入れた。その後を遅れて三人が追う。先程までおとなしく団体行動していたレッドの突然の行動に、彼らは少々驚いた。何やら吟味しているらしいレッドに、「どうしたレッド」とグリーンが代表して尋ねる。だが赤い瞳はそちらに見向きもしない。困ったように見合わせた三人は、思う。元々レッドは自由人なのだ、と。暫く待つことにした。
やがてほんの数分して、レッドは三人の方へ向き直る。掌に何か目ぼしいアクセサリーを乗せたらしいレッドは、シルバーの正面へと向かった。レッドの真っ赤な瞳に見つめられて、シルバーは多少たじろいだ様に尋ねる。

「どうかしたか?」

「……これ」

レッドはすっと手を差し出す。その掌に乗せられていたのは、ひとつのリングだった。細い銀色の輪は瞬くように光を照り返し輝いている。その狭い表面には紋様が掘り込まれており、ルビーか何かの宝石がそっと埋められていた。

「指輪?レッドさん、アクセサリーが欲しいのか」

レッドの掌の上で輝くリング。それを覗き込み、シルバーは軽く髪を揺らした。

「違う……、手」
「手?」
「……手、出して」

平静の無表情のままに指示をするレッド。シルバーは言われるがままに手を差し出す。するとレッドはその手をしっかりと握り、シルバーの細い指先に――リングを通した。

「――――え」
「……うん」

レッドは無表情から、ほんの少し口端を緩めた。

「似合うね」

満足そうな微笑みを真っ正面から受けて、シルバーの顔が赤く染まる。

「え、あ、……なっ?」
「……シルバーって名前に、合ってる。この赤いとことかも、シルバーの髪みたい」

レッドはどこか嬉しそうに指輪をそっと一撫でする。されるがままのシルバーは、さらに顔を赤くした。その赤面は、怒りからなどではない。ちらちらと動く視線と閉口を繰り返す口が、シルバーが照れているのだと示している。

「それなら、レッドさんの目のほうが、この宝石みたいだ」
「……そう?」
「あぁ。……ほら」

シルバーは忙しなく指からリングを抜き取ると、レッドのグローブをそっと外し、リングを差し入れる。自分でも納得したようにひとつ頷いた。

「こっちのほうが、俺よりレッドさんのほうが似合う」
「………そうかな」
「俺はそう思うが」
「…なら、同じの買おう」
「え、」
「似合うなら、いいでしょ?」

レッドはシルバーの腕を引くと店内の奥へと進んでいく。店員を無言で捕まえて、「……同じのを」と口にした。店員はにこやかに頷くと、直ぐ様同じ指輪を持ち出した。レッドは小さく微笑んでシルバーに差し示す。
シルバーは恐る恐るといったように指に指輪をはめる。レッドはチェーンを購入して首に掛けた。考えてみればペアルックだなんて行為は初めてだった二人は、ちょっと照れたようにはにかんだ。
すると、レッドの肩でピカチュウが羨ましそうに鳴いた。シルバーの後ろをついて歩いていたニューラもまた目を密かにきらめかせている。どうやら、二匹はペアルックの二人が羨ましいらしい。レッドとシルバーは無言のまま自分の相棒へと目をやる。そして店員に、ポケモン用のものも頼んだ。
見た目愛らしいポケモンと共にアクセサリーを身につける。その様子は大変仲睦まじく、周囲の目からはとても微笑ましい光景に映った。


「……ゴールド」
「なんですかグリーンさん」
「俺、レッドとお揃い持ってねーんだわ」

ゴールドが笑顔を浮かべながら頷く。

「俺も、シルバーとお揃い持ってないです」

グリーンとゴールドは二人並びながら、楽しげなレッドとシルバーを遠めに見守る。遠い目をするグリーンの横で、ゴールドは微笑んでいるが――その笑みは決して幸せなものではない。

「しかもな、俺の質問は無視だったぜ、あいつ」
「シルバーのあんな照れたとこ俺も見たことないですよ」
「………」
「……俺たちもお揃いにします?」
「そりゃあ名案だ」

二人はどこか虚しさを孕んだ、乾いた笑みを浮かべた。
 四人はそれぞれが性格外見が異なり、しかしポケモンバトルでは他の追随を許さぬような強者だった。三人もがリーグ制覇者であり、一人もチャンピオンに引けを取らない強さを持っている。一度ポケモンバトルを展開すれば、喜怒哀楽する彼らの瞳はただひとつ闘志に燃えることだろう。だがこうして買い物に休みを費やし、ちょっとした色恋沙汰に一喜一憂する。その様子はまるで――普通の若者のようだった。





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