男は快楽主義だった。己が愉快だと思ったことに身を投じ、比類無い享楽にふける。典型的快楽の主体としての異性交友、発展して乱交、強姦。違法薬物接種であるとか、弱者に対する優越。サディスティックな気性を持った男は、その本質に基づいた快感に全てを委ねることを惜しまなかった。そしてそのためならば、何事も惜しまず躊躇わなかった。
この度男がR団へ入団したのも、その一貫であった。何の咎めもなく悪業を生業とし、他人の不幸を采配し、それを咀嚼する。極悪非道、悪党でしかないR団。並の造作は一通りこなしてしまった男にとって、ポケモンを使い他人を虐げ、ただ利益を欲するその組織は大変魅力的だった。
入団した男は下っぱからのスタートだった。実力主義であるR団は、誰もが小間使いの名も無き団員からスタートする。その中で台頭する者はあっという間に昇格していくし、何の特筆すべき才覚もない者は延々と下っぱのままだ。そのシステムに対し、入団した者は或いは野心を燃やし、或いは諦観を示す。男は――どちらでもなかった。ただ愉しむことが出来ればいいと思っていたため、昇進などに興味は無かったのだ。
 そんな理由から、男は地下にある基地でぶらぶらと散策に興じていた。今は潜伏期間であるため、特に目立った作戦が振られていない。細かい作戦や段取りの下準備に従いたくもないがため、見回りと称したサボタージュ中だった。照明に照らされたコンクリートの上を、男はだらだらと歩く。会議室を通り過ぎ、中間管理員の執務室、自由部屋を横目に、ひたすら暇を持て余す。徐々に人気の薄れゆく廊下を無闇に進み、曲がる。そして男が辿り着いたのは、資料質とは名ばかりに等しい倉庫部屋だった。何か面白いものが見つかるかもしれない、ではないにしろ、今後使えるかもしれない。そう考えた。
 手を掛けたドアノブは、何の抵抗もなく回った。倉庫部屋にはなぜだろう、施錠がされていなかった。男はキョロキョロと暗がりを見回す。すると、視界の端で何かが動いた。男は咄嗟に腰のモンスターボール(中には支給されたばかりのズバットが入っている)に手をやった。時折、このアジトには侵入者があったのだ。警戒しながら影に目を凝らす。するとその影は少し小さな人影で、――何と、子どものものだった。子どももまた、男を凝視している。その子どもは、白くほっそりとした体付きをしていた。ぱっちりと開かれた瞳は、澄んだ赤をしている。首を揺らした際に帽子の下で、少し目にかかるくらいに長い黒髪がさらさらと揺れた。少年というには線があまりに細く、少女というにはすらりと伸びた風情。とはいえ、衣服から見るに男性だろうとは察した。しかし男性だとしても、その少年は巷においてはあまり目にかかることの無い、中性的な不思議な香をしていた。どこか遠くに焦点を合わせた様な、儚いような頼りの無い様子。かくれんぼをしていて迷い込んだといえるような年には見えない。ならば――侵入者だろうか。侵入者は、排除しなければならない。たとえどんな非道な手段を用いるとしても。男はにやりと嗤った。男は快楽主義だった。己の楽しみのためならば、何も惜しみはしない。そんな男にとって、目の前の存在は垂涎に値した。様々な経験をこなしてきた男であったが、同性を――少年を手籠めにしたことは無かったのだ。
男はモンスターボールから手を離し、音もなく少年へ歩み寄る。そのままの流れに少年の手首を掴む。勢いよく引き寄せてから、壁に押しつけた。少年のかぶっていた帽子が、一瞬遅れてとさりと落ちた。

「――――?!」

動転したように揺らいだ赤い瞳を目にし、男は高揚した。男の加虐心はいつどこでも働くものだった。

「ここは子供の遊び場じゃないんだぜ、"お嬢ちゃん"」
「………、?」
「悪党の潜伏地、R団のアジトだ。そんなところにいて、どうなるか分かってんのかァ?」

無防備に開かれた少年の両足の間に膝を差し込み、ぐりぐりと擦り上げてやる。

「っ?!」
「意味が分かったか?」

少年の小さく息を飲む音に男は嗤った。
平行して縫い止めるように掴んだ手を、上にひとつに束ねて左手で押さえる。空いた右手で少年の下半身に手をやり、バックルに手をかけた。

「っ!」

年頃のせいもあるのか中々に察しのいい少年は、途端に身を捩る。それに構わず乱雑にベルトを緩め、直ぐ様スボンを引き降ろした。男は同性に性行為を試みたことはなかった。そのためどういった愛撫を加えるべきかと一瞬戸惑ったものの、同性であるからこそ、とりあえずは性器を刺激するに限ると考えた。片手に納まってしまう少年の性器を、男はやんわりと握る。

「ん、ぅ…」

少年は唇を噛み締めて声を堪えている。我慢強いのも可愛いが、あられもなく泣き叫んでほしいと男は思った。首筋から舌をねぶるように這わせ、それを耳朶に侵入させた。唾液をたっぷりと含ませ、ぐちゅぐちゅと淫らに泡立つような水音を響かせる。

「っやめ、!」

首を振った少年に、その動揺に乗じて丁寧に搾り取るように性器を扱き上げた。

「あぁ、あ!」

少年はびくりと体を震わせて喘ぐ。

「中々かわいい声じゃないか」
「…ゃ、やめ……っ」

抵抗されたほうが欲情するのは男にとって当然だった。酸素を欲するように拙く開かれた少年の唇に、舌をねじ込む。噛み付こうとする歯列を速やかになぞり、押し返そうとする舌を絡めとって吸ってやれば、鼻にかかるような声が漏れてくる。首を振って逃れようとするたび、痛みを覚える程度に強く手淫を施してやる。少年は抵抗をやめはしない。だがその威勢は確かに、徐々に覚束ないものになっていく。陥落していく様を楽しみながら、同性とのものも中々かもしれないと男は思った。同性である分、力関係から快楽する征服感が倍増する。陰茎さえ握ってしまえばそう派手な抵抗もされない。さらに対象が少年であるということで、犯罪臭がたまらない。何より、この少年――心から嫌がっているようだが、どこか――よがっているような、攻められる側の行為に慣れているような、厭らしさがあるのだ。
首筋を仰け反らせて口付けに応じる少年の性器を、緩急をつけながら扱き続ける。熱を持ち震えるほど固くなったところに、先端に爪を立ててやった。

「――――っぁ、ア!!」

少年がびくびくと痙攣して達する。その姿が愉快で堪らなくて、男は興奮を顕にして笑った。手に付着した精液を、少年自身の頬にべったりと擦り付ける。いやらしいな、と囁いた。
それを受けて、少年は肩で息をしながらきっと睨み付ける。その瞳の真紅は潤んでいる。そういった態度は加虐心を煽ることになるとなど知らないだろうと思い、男はくつくつ笑う。そうして少年自身の精液に濡れた指先を後穴に宛行った。びくりと身を震わせた少年の首筋をぞろりと舐めて、申し訳程度に緊張の緩和を促し、そして――

――そして男は、"ぶっ飛ばされた"。

少年によってではない。後から襲い掛かってきた何ものかの攻撃によって、男は少年から強引に引き剥がされた。男は無様に段ボールやら棚の間を滑ると、少年とは離れた壁に激突して停止した。男はぎこちなくも起き上がり、事態を把握しようと周囲を見張る。

「何て真似をしているんです、あなた」

どうやら男を攻撃したのはポケモンで、その指示をしたのは人間らしい。倉庫の入り口には誰かが立っていて、その傍らにはヘルガーが座していた。ヘルガーを操るR団員など、R団にはほんの僅か。それも幹部クラスしかいない。男は予想外の人物の登場に仰天した。

「あ…アポロ様?!なぜ、こんなところに」
「それは私の台詞です。あなた先日入ったばかりの団員ですね。こんな所で何をしているんです」

穏やかな物腰とは裏腹にアポロの眼光は鋭い。男は若干狼狽えながらも、へらっと媚びるように笑いながらアポロに答えた。

「いやですね、この部屋を通りかかりまして。そこで発見した侵入者にちょっと、」
「それが、"何をしているのか"ときいているんですよ。私は」

アポロの語調に男は息を呑む。

「……は、い。あの、それは一体」
「お前が手を出したその人は、お前が手を出せるような方ではないということです」
「……え?」

そこで男はふと気がついた。アポロの、その背後にある人影を。タイトなスーツを基調とするR団の中で、無二のスーツ姿。男はその人物に直に目通りしたことはなかったが、この組織に入団する以上その存在を知っていた。何せその男はカントー全域で犯罪者として指名手配されている――このR団の、ボスなのだ。
思わず絶句する男。それを冷徹に見下すアポロを尻目に、R団首領、サカキは、何の前触れもなく一歩踏み出した。入り口に直立するアポロの横を通り、跪く男を一瞥することもなく歩を進める。そして壁に持たれ掛かるようにして座り込んでいる少年を、その腕を掴んで引き立たせた。――男は一瞬アポロの発言も忘れ、ボス自ら侵入者を捕らえに来たのかと思った。だがそれは錯誤でしかないと直後に思い知る。サカキは少年の乱れた衣服を軽く整えると、丁重に抱き上げたのだ。
 男は硬直するしかなかった。侵入者だと思っていたこの少年は、自分が手出ししていいような人間でないと上司が言う。さらにはボス自らが少年を出迎えに来た。ならば、この少年は、

「アポロ」

何時の間にやら入り口に戻っていたサカキは、倉庫内を振り替える。その際、失神に値するような冷えた感情で男を見て、アポロに顎で軽く杓った。

「組織のルールが行き届いていないものは、きちんと始末しておけ」

バタン、と重い音を響かせて部屋の扉が閉じる。その中には、男とアポロが残された。アポロの傍らには、先程男を軽々と薙いだヘルガーが出されたままだ。アポロは無感情な瞳で男を――見た。

「そういうことです」

 男の快楽主義は、そこで終わりを迎えた。





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榊赤とR団
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