夢を見ていた。ずっとずっと、同じ夢を。
その夢の中は、いつも冬だった。見慣れた灰色の空、張りついた仄暗い群雲。意味もなく擦り合わせた手は青く、吐く息はまるで魂が抜け出たように白い。吹き荒ぶ風は冷気を纏う。静かに降り積もった雪は粉雪だ。上から降ってくるのと、下から巻き上がるのとで、辺りは眩むほどの銀世界だった。そこで俺はいつも立ち尽くしていた。まるで凍り付いた木々のように、雪で出来た像のように。外気は容赦なく俺に叩きつけられる。でも上着は着ない。いつも半袖でいたからこそ、俺は別に寒さを感じなかった。人間の順応性って高い。それに、上着を着ていると勿体ないことがある。

「ばか、寒いだろ」

 グリーンは雪のなかに必ずやってきて、俺に会いに来た。吹雪に乗ってきたように突然やってきた。そしていつも、俺に上着を被せてくれる。襟のところにウインディみたいなファーの付いたコート。それはグリーンが今さっきまで着ていたものだった。

「……寒くない」
「はぁ、お前は寒くなくてもな、俺が見ててさみーんだよ」
「……見なければ?」
「…お前なぁ、俺がお前から目離すわけないだろ」

 グリーンは呆れたみたいに言う。それはいつもお決まりのやりとり。いつも世話を焼いてくれて、俺を見てくれる。それが嬉しかった。俺は冬が好きだ。寒さで凍り付いた季節は、人の温もりばかりが暖かい。凍てつく季節にいるからこそ、俺は変わらない寒さの中にいて、暖かさを受けられた。


 夢が覚める。同じ夢が覚めるたび、俺は同じ現実で目を開く。
夢とは真逆で、現実は夏。濃い青の空に入道雲。その切れ間から覗く太陽は、ぎらぎらと日光を差し落とす。地面は熱を食らって焼ける。辺りは生気に満ちている。雲でさえもくもくと膨れ上がるこの季節では、木々は濃緑の葉をめいいっぱいに広げて、生き物はあくせくと動き回る。寒さに強い俺は、暑さに弱いから汗をかく。
夏は、嫌いだ。

「……グリーン」

こんな熱い季節に、グリーンはコートなんか着せてくれない。俺に会いにくる口実はなくなる。だから俺は夏が嫌いで、季節が止まればいいと願った。
 目を閉じ横たわるグリーンに、そっと触れる。蒼白い目蓋に口付ける。ねぇグリーン、グリーンも、夢を見てる?あの冬の夢。俺達が寒さの中で暖かかった夢。俺はあの日々を何度も夢に見る。互いの冷たい肌が嬉しかった日常を。だって今、グリーンの肌は冷たくあるべきなのに、どんどん熱を持っていくんだ。冬なら、冷たいままなのに。変わらずにいられるのに。あぁ、いつも夢の中にいられたら。冬を見ていられたらいいのに。

 夏は嫌いだ。
グリーンが、腐るから。





100718
4000Hitありがとうございました!いねこ様に捧ぐ
補足・夏場の死体はよく腐る
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