例えばの話だ。お前が俺を知らないとしたら、お前は俺をこんなに近付けたのだろうか。お前と俺は、きっとライバルという言葉で表せる関係だ。だからもし、お前と俺がライバルではなく、ただの知り合いだとか、近所の住人だとか、通りすがりのトレーナー同士だとかしたら。お前は俺とこんな風に話していたのだろうか。
「どうしかしたのシルバー」
「何でもない」
「眉間に皺寄ってるけど」
「放っておけ」
ゴールドはそう、と首を揺らすと、膝に乗せていた俺のニューラの首を掻いて笑った。ニューラは喉を鳴らして喜んだ。
――恐らく、と俺は思う。
恐らく、お前は俺を近付けただろう。俺がお前にこうしてライバルという関係を言い訳にしてにじり寄らなくとも、お前は俺と言葉を重ね、親睦を持ち寄ったのだろう。それは俺の自惚れや期待ではなく、周囲を見回した結果、導きだされたゴールドの性質だ。
俺だけではない。お前は誰だって近くへ寄らせた。
老若男女問わず、ゴールドに笑うもの敵意を向けるもの全てを自身のテリトリーに入れていた。奴には差別という概念がないのかもしれない。又は大して興味が無いのかもしれない。だから選り好み、特定を決めないのかもしれない。それはどこか羨ましくもあり、――至極危惧に値するものだった。
知っているかゴールド。たとえ、お前が相手を何とも思っていないとしても。その範囲に踏み込ませた時点で、お前は相手に全てを許しているのと同等だということ。
お前はちゃんと理解していて、今俺を目の前に置いているのか。その愚かさがいつか身を滅ぼしてしまうのをお前は理解しているのか。きっと微塵も考えてはいないだろう。招き入れた興味のない人間に首を取られるまで、お前はへらっと笑って生きている。
なら、俺がその首を取ってやろう。
驚きと後悔に歪むお前の顔はきっと、爽快だろうから。
「…え。何、シルバー」
「何でもない」
この口付けは、まずその手始めの一歩だ。
100526