たまに雪山の頂上へ足を運ぶ。入山へは許可がいるシロガネ山。用件は勿論、幼なじみの生存安否確認。生き物が生きていられるのが不思議に思える極寒の地。雪を通り越して降注ぐのは固い霰。ジムリーダーという栄誉ある職業に就いている俺がなぜわざわざこんな不毛地帯へ足を運ばなければならないのかと思うこともある。だがまぁそれは、惚れたほうの何たらと言うだろ。

「おい、レッド」

 声を張り上げて幼なじみを呼ぶ。頂上にある洞窟を抜けた先の、がらんと一面真っ白の世界が、あいつの定位置だ。
そしていつも通りそこには、この摂氏零度以下の外気の中半袖という異常なスタイルで平然と佇むレッドがいる―――あれ?
いなかった。

「、あ?」

おかしい。いつもはぱっと目に飛び込んでくる赤と黒のコントラストが見当たらない。どこか別の場所にいるのか、知らぬ間に下山でもしたか。何とはなしにざくざくと雪原を踏み締める。

すると、がつん。と


「…………………レッド」


 足元には、若干雪に埋もれたレッドが横たわっていた。
慌てて抱き起こしたりしなかった。死んでいるのかと、思ったからだ。抜けるように白い肌。綺麗な影を落とす睫毛は凍り付いている。唇には色が一切無く、全てが安らかに氷結しているように見えた。美しい人形みたいだった。まるで死んでいるようだった。

 そう、まるで。

――まるで死体のように雪に埋もれていたレッドは、一秒、二秒、三秒……俺の呼び掛けからゆっくり時間を保って、ぱっちりと鮮血の眼を開いた。

「………グリーン」
「………」
「………」
「…何してんだ、レッド」

死体みたいなレッドは、青い唇をぎこちなく動かした。

「死体ごっこ」

俺は間髪いれず「馬鹿か」と言ってやった。
そしてほんの極微かにむっとしたように眉を寄せたレッドに、身を寄せる。

「死んでるかと思った」
「……ありがとう」
「誉めてないからな」
「……違うの?」
「当たり前だ」

死体みたいなレッドは、生きている人間らしく瞬きをした。そこで俺はやっと、レッドを抱き起こして抱き締めた。まるで氷を抱くようだ。冷たく固く、人間じゃないみたいだと思った。

「いつから、こうしてたんだ」
「……………分からない」
「死ぬかもしれないだろ」
「多分……グリーンが見つけるまでこうしてた」
「じゃあ死ななかったな」
「……そう」

レッドは首を縦に微動させた。そして続け様に、横に傾げる。

「グリーンは、」
「ん?」
「俺が死んでたら、どうした?」

どうしたって、どう?
レッドがもし死んでたら、俺はどうした、何をした?そういうことか。何ていう質問をするんだこの幼なじみは。と思ったが、こいつの変り者具合は何時ものことだったので諦める。そうだな、何をしたのだろう。
 雪に埋もれて瞼を伏せるレッドを見て、俺はさっき動けなかった。それは何故か。死んでいるのかと思ったからだ。死体になっていたレッドはまるで人形みたいだった。全てが永遠を刻んだように見えた。思わず息を呑んでいたのを自覚する。本当に綺麗に、息を引き取ったみたいだった。
美し、かった。

「キス、したな」

レッドはぱちぱちと音のしそうな瞬きをした。

「………へぇ」
「多分、キスをした。それできっと、襲った」
「変態」
「お前だけだから問題ないぜ」

凍り付いた睫毛に口付ける。温かい水が舌を濡らして、さらっと唇が動いた。

「死体のお前でも愛せる」

つまりはそういうことだ。って笑ってやると、レッドは再びありがとうと言った。…まぁ今回は誉めてるから、いいんだけどな。





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