本当に信じてるんですか?感情のこもらない平坦な声は、俺の深くを抉った。

「強いですよ、強いですよね、あの人。グリーンさん、とても強い。ポケモンバトルだけじゃない。心が強い。」

 吹雪く風が痛い。冷たいは痛いとイコールで結ばれている。耐え難い痛みがずきずきと突き刺さる。そういえば今まで、この吹雪に痛みを感じたことがあっただろうか。

「けれど、強いと弱いは表裏一体ですよね、よく聞く話です。」
「………」
「グリーンさんは強い人ですね。それはつまり、弱い人だということです」
「………うるさい、」
「ねぇレッドさん、あなた、本当に信じてるんですか?」

 ゴールドは俺を笑ったりはしなかった。ゴールドは表情を少しも変えなかった。ただ、興味も湧かず呆れもしない、限りなく無感情に近い微々たる微笑みで、俺を見ていた。
――まるで壊れた何かのようだ、と思う。
何なのかは分からない。正常だったのなら何に分類されるのかなんて、想像がつけられない。けれど確かに言えるのは、ゴールドは何処かが壊れているということだった。
そう思わせる雰囲気と実感が、正面から、俺を問い詰めようとしていた。

「約束したでしょう、誓い交わしたりもしたでしょう、何度も確かめ合ったでしょう。でもそれが、何の証になりますか」
「………うるさい、」
「ねぇ、レッドさん。あなたは信じているんですか?彼の強さなんて、弱いものを」
「だまれ」

 もうそれ以上は聞きたくないと思った。聞いたら、駄目だ。ゴールドの言葉はぼろぼろと腐敗を誘う、甘く苦い匂いがする。ゴールドの存在の根本から滲み出る、ひどい麻薬だ。それを吸って吐いて呼吸をして、身体の中に巡らせてしまうのは、おしまいだ。きっと俺は、戻ってこれなくなる。そう思った。
そう思ったのに。

「もう彼は、あなたを諦めて、他の女と」

――吸ってしまった。
思わずはっと息を止める。でもそれだけでは間に合わない気がして、ゴールドの腕を掴み雪の上に押し倒した。

「……………黙れ」

振り絞った声は、自分のものじゃないみたいに熱く擦れていた。

「それ以上、グリーンのこと、」
「侮辱なんてしていません。嘘だって吐いてません。俺は、グリーンさんの弱さをあなたに伝えただけです」

 ゴールドは雪のなかに沈められながらも、微動だにせず静かに唇を動かす。
――こいつは、何がしたいんだ。
俺はその程度しか考えられなかった。――グリーンのこと乏しめて、もし真実だったとして、俺を動揺させて。一体何がしたいんだ。絶望でもさせたいのか。怒り狂う様でも見たかったのか。結果、バトルを有利に運べるとでも思ったのか。そんなものが上手くいくことは決してない。

「俺はね、レッドさん。俺はただ、」

ゴールドがまた口を開く。まるで俺の思考を読み取ったかのように、タイミングよく。緩やかな唇から言葉が紡がれて、ひどく甘く苦い腐臭がどろりと立ちこめる。俺を駄目にする、あのむごい麻薬だ。
あぁ、もういっそ、こんな口開かなければいい。そう思った。

「黙れ」

 絶え間なく動こうとする口、この口で塞いでやった。ゴールドは少しだけ驚いたように喉を鳴らす。言葉は消え去った。それでも、苦くて甘い毒が、口から口へと流れ込む。頭がくらくらした。空気を求めて口内を貪ると、目眩は強くなった。吐き気のする快感を食らう。
そうして俺は麻薬を肺一杯に吸い込んで、穏やかに瞳を閉じたのだった。





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