「ひどい」

 ゴールドは擦れた声で、そう呟いた。涙ひとつ零さず、ただそうとだけ言うと目を固く瞑った。

「ひどいですワタルさん」

ゴールドはそのまま、シーツを引っぱると自分の身体をすっぽりと覆い隠す。そしてしんと黙り込んだ。夜中の薄暗いベッドの上に、沈黙は静かに満ちていく。どろどろと、悲哀を流す涙のような無音だ。それに窒息しかねて、ゴールドの傍らにいた男は口を開いた。

「申し訳なかったね」

 ワタルは謝罪を口にする。しながらに、ゴールドの身体に腕を回した。いつもの衣裳を纏わぬ腕は裸で、そしてそれは全身も同様であった。
ゴールドは回された腕の迷いの無さに、びくりと肩を揺らし、怯えた。

「嘘です、嘘ですね。ワタルさんは、悪いだなんて思ってないんでしょう。ひどい人だ」
「なぜそんなことを言うんだい」
「もし俺に悪いと思っているのなら、こんな風に腕を回したりしないはずです」

ゴールドはそう言うと、ワタルの腕を振り払う。這うようにしてベッドから降りて、よろめきながら立ち上がった。
がくがくと震えながら全身を支える両足。その内股からは、どろりとした白い液が伝った。

「ゴールド君、足が震えているよ。無理をしないほうがいい」

ゴールドは首を横に振る。長いシーツを掻き合わせながら、ワタルを睨んだ。

「いやです、寄らないでください」
「腰が痛むだろう?後に響く。」
「構いません」
「ゴールド君、」
「ワタルさん、なんで、こんなことするんですか」

瞬間、ワタルはゴールドの腰を強引に引くとベッドに引きずり込んだ。ゴールドは小さく息を呑み、身を強ばらせる。ワタルは目を揺らすゴールドに、微笑む。ひどく満足そうで、歪な感情の滲むようなそれだ。

「俺は、ゴールド君が好きなんだよ」
「じゃあなんで、こんなことを」
「俺は、ゴールド君は好きだよ。けれどね、現チャンピオンである君のことは、とても嫌いなんだ。憎いくらいにな」
「――な、」

ワタルはそうして、ゴールドの腰に手のひらを滑らせる。ゆっくりと這うように撫でながら、やがて下肢へと指を到達させた。

「ゴールド君」

 ワタルはそっと笑うと、ゴールドに唇を押しつけた。ぎゅっと唇を引き結ぶゴールドの鼻を塞ぎ、酸素を渇望させて無理矢理に口内へ押し入る。

やがてワタルが浮かべた笑みは、まるでチャンピオンのような、余裕に満ちたものだった。





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