「レッド!!」

 誰かが名前を呼んでる。
踏み荒らされるように、雪が鳴っている。閉じかけた視界を必死に凝らした。すると、さっきヨーギラスが消えていった森から、再びヨーギラスが慌てたように駆け出してきた。そして、その後ろには、

「グリー、ン……」

コートを着て白い息を切らす、グリーンがいた。

「レッド、お前…っ!」

グリーンは俺の傍らにしゃがみこむと、目をこれでもかと言うくらいに見開いた。

「グリーン……なんで」

なんでここに、そう言いたかった。グリーンは俺の言いたいことがわかったのか、息を切らしながらまくしたてた。

「お前を探しに来たんだ、シロガネ山に。そうしたらモンスターボール抱えて山降りてくるヨーギラス見つけて、逃げるから追ったら、お前がっ」
「……ピカチュウは」
「ボールは俺が預かった。大丈夫だ」
「あと皆が、洞窟…」
「分かった、だからお前、もう喋るなよ!」

 グリーンは着ていたコートを脱いで、俺に着せようとする。俺の身体を抱き起こして、顔を歪めた。何か変なものでも触ったのだろうか。

「……グリー…ン」
「喋るなって」
「……嬉しく、ない…?」
「…は?」

グリーンはまた目を丸くして瞬かせる。

「俺、多分死ぬ……嬉しく、ない?」

強ばって動かすのが億劫になってきた唇を、なんとか震わせる。そして俺は気になっていたことを問い掛けた。
 俺が死んだら、グリーンは悲しくないのか。嬉しいんだろうか。多分、嬉しいんだろうな。そう俺がぼんやり思うと、

「何言ってんだお前っ、そんな訳あるかよ!」
「え……」

グリーンは声を荒げた。

「お前が死んだら、皆悲しむだろ!俺だって、嫌に決まってる!」

 グリーンは、そう言ってぎゅっと口を結んだ。俺を見下ろすその顔には、曇天のせいで影が落ちている。表情が伺いづらい。けれど光の灯るその目は、真っ直ぐに俺を見つめていた。目の奥に、喜びの色は無かった。グリーンは真剣な目で、俺を心配していた。
俺が死ぬとき、グリーンは嬉しくなんかなかった。
悲しんでいた。

「ずっと探してた。お前連絡なしで行方暗ますから、暇を作ってはあちこち捜し回ったんだぜ」
「ほん、と…う」
「あぁ、だから、死ぬなよ。折角やっと見つけたんだからな…大丈夫だ、今マサラ…いや、シロガネからならコガネの、大きい病院に行けば、平気だからな?!」
「……グリーン」

 俺は嬉しい。グリーンは俺が死んで、喜んだりはしないんだ。俺は、俺がいなくなったら悲しんでくれる人たちに囲まれていたらしい。誰も悲しんではくれないだなんて自虐的なことは思っていなかった。けれどこうしてグリーンまで俺を心配してくれるのを見ると、幸せだと思う。それは身体の中心を凍らせるこの寒さを溶かすほどの、暖かい幸せだと思った。
 グリーン、俺幸せだ。死ぬのは怖いと思うし、この寒さは耐えられない。けれど、今とても満足だ。
白銀を仰ぎ見ながら、そう思った。





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