マドンナ | ナノ





「うーん、財布だけじゃさすがに解らないよ」

教室に戻って、この財布の持ち主を知っているか、と聞くとみんな首を捻っていた。財布だけ見せられても女の物だという事しか解らない。

「すぐ追いかければ良かったのに」
「そいつがすぐ居なくなっちまったんだよ」

先程の出来事を説明すると、全員興味深そうに話を聞いていた。「竜の旦那にそんな態度取るとか珍しいね」との事らしい。

「外見の特徴はないのでござるか?」
「Ah- 身長は低めだったな」
「俺らと同じ学年なのかい?」
「靴のborderの色が同じだったからな」
「うーん、そういう変わった子は知り合いにいないかな」
「今から探しにいくか!」
「そうだねー、今頃財布探してるだろうし」
「めんどくせー・・・」
「張本人がその態度は無いんじゃない?」

うちの学年は11クラスある、それを片っ端から覗いていくなんて、面倒くさいだろう。という意味を込めて佐助を見ると「俺様、旦那のそういうとこ嫌いだよ」と言われた。

「おー何してんだ?」
「元親!おかえり」
「おうよ、慶次ジュース買ってきたぜ」
「Hey!元親、この財布の持ち主知ってるか?」
「は?」

慶次にジュースを投げて渡す元親に、ずいっと財布を見せると、元親は何を言ってんだ?という顔をしてから、心当たりがあるような顔で「お、それもしかして」と言った。

「何で政宗がそれ持ってんだ?」
「拾った、Whom is this?」
「それ多分名前のだ」
「名前?」
「おう、その財布気に入ったんだけど、手に入れるの大変だったって言ってたから多分そうだ」
「classは?」
「4だったな確か、一緒に行くか?」

思わぬ展開で、とっとと返す事が出来そうだ。

「んじゃ、政宗案内してくるわ」
「いってらしゃーい」

手をブラブラ、と振って見送る佐助を横目に立ち上がった元親にの後ろに着いていく。

「元親、名前って奴と仲良いのか?」
「ていうか幼なじみなんだ」
「Wow!意外だな」
「意外?ああ、名前と喋ったのか?」
「というよりさっきぶつかったんだけどな、funnygirlだったぜ」
「あいつは変わってるというより、不器用なだけなんだよ」

元親は笑顔でそう言うから、思った以上に仲が良いみたいだ。四組の前に着くと、元親は後ろのドアから「名前ー」と呼んだ、ちらり、と中を覗くとさっきぶつかった女子生徒が、こちらを見ていた。ああ、間違いないみてえだ

「チカちゃん!」

イスから勢い良く立ち上がって、こちらに走ってくる少女は先程あんな事を言っていた女には到底見えなかった。元親も嬉しそうに手を振っている、傍から見たらカップルにしか見えない。

「チカちゃんどうしたの?めずらし・・・いね」

元気良く走って来たかと思えば、俺の顔を見るなり、その場で固まった。元親と俺の顔を交互に見て、それから俺の持っている財布に目をやると、怯えたように後ろに下がった。

「おい名前、何怯えてんだよ」

元親が名前を宥めるように近づくと、元親の後ろに逃げるように隠れた。

「おもしれぇ、come on!」

猫を呼ぶときのように舌を鳴らしながら、人差し指で来いの動作をすると、警戒したように睨みつけてくる。

「政宗、名前で遊ぶなよ」
「欲しけりゃ取ってみな」

腕を限界まで伸ばして財布を掲げると、名前は悔しそうに財布を睨みつける。

「早くしねえと、俺がこれ貰うぞ?」

嘲るように笑うと、元親のシャツを引っ張っていた手を離して、俺にゆっくり近づいてくる。やべえ、小動物感が増してやがる

「見てるだけじゃ財布は戻ってこないぜ?jumpだjump」

男の平均身長より高い政宗と、女の平均身長より低い名前だと、差は歴然としていて、名前がどう手を伸ばしても政宗が掲げている財布には届かない。政宗の言うとおりジャンプするしかないらしい、この意地の悪そうな顔つきの奴が素直に返してくれるはずがない、と名前は判断した。

「んっ・・・!」

出来る限り飛んではいるものの、名前の手は政宗の手に届かない。必死になっていくに従って、名前と政宗の距離は縮まっていく、政宗はそれに内心笑みを浮かべながら、茶化すように財布を持つ手を、右に左に振る。名前は今にも泣きそうな顔で、それを睨んだ。

「たくっ、政宗。名前にSを発揮すんな」

名前が必死の余り、政宗を押し倒す勢いで飛んでいる状況を見て、さすがに可哀想だと感じた元親が、ひょいっと名前を子供を持つかのように、腰を掴んで持ち上げた。必然的に視界が高くなった名前は、目の前に政宗の顔が見えたのに驚いたが、直ぐに財布に手を伸ばした。

「shit. 元親邪魔すんじゃねえ」

意外にも政宗はあっさりと財布を返した、名前は戻ってきた財布に目を輝かせる。

「よっ、と」

元親は名前をそっと下に降ろす、政宗はつまらなそうに眉を寄せてその様子を見ている。

「チカちゃん、ありがとう!大好き」

後ろを振り返った名前は、助けてくれた元親の腰に抱きついて、頭を元親の胸にぐりぐりと押しつけた。元親もそれを嫌がらずに「おー怖かったな」と名前の頭をぐしゃぐしゃ撫でている。さっきは2人をカップルだと見えた政宗は、今の様子からだと兄と妹のようだと思った。

「kitty?お礼なら俺にもしてもらうぜ?」

政宗は元親にくっついていた名前を引っ剥がすと、名前の腰を抱いて、名前の耳に自分の口を寄せる。

「それ拾ってやったのは俺だぜ?you see?」

嫌だ、と言うように暴れながら元親の方へ手を伸ばす名前を、左手で押さえ込みながら、右手で名前の腰を撫でる。

「あっ、うっ・・・」
「Ha!良い声で鳴くじゃね「貴様!名前から手を離せ!」

元親は政宗が右に飛んで行くのを見た、手の中にいた名前は器用にも殴られた瞬間助け出されたらしく、被害は無いようだ。

「元親!お前何を見ているんだ、こんな奴に名前をさわらせるな」
「わりぃ、かすが・・・」

かすがと呼ばれた金髪の少女は、名前を庇うように前に出た。

「行くぞ、名前 こんな馬鹿に付き合ってる場合じゃないだろう」
「あ、うん バイバイチカちゃん!」

かすがの後ろを慌てて追う名前に元親は手を振り、横で伸びている政宗を見てため息を付いた。

「(何だか面倒な事になりそうな気がするな…)」