マドンナ | ナノ




暑い、それはもう汗が止まらない程暑い。Yシャツの襟をパタパタ扇ぐが、それも大した効果は得られない。うちの学校は冷房完備している。が、今日は運が無いのだろう、いつも買っている飲み物がどの自販機も売り切れていた。けれど、俺はそれが飲みたくて仕方無かった為、最終手段に取って置いた自販機に向かう事にした。そこの自販機は運動部が使いやすいように、グランドの方に設置してある為、校舎の外にある。つまり外に出るという事だ、暑いに決まっている。六月下旬だというのにこの暑さなのだから、夏休みはどうなるんだか、と考えながら自販機に向かうと、此処まで来て良かった。売切れの文字は光っていなかった。ガシャン、と勢い良く出てきたそれを、口に流しこむ。やっぱりこの季節はこれに限る。半分程残したそれを手に、そろそろ教室に戻らないと、置いてきた弁当が心配だ、真田あたりが勝手に食ってそうだ。

ドンッ

わき腹に衝撃が走った、体勢を崩すものの、後ろに右足を下げてバランスを取る。何だ、とわき腹に目をやれば女子生徒が見えた。その女子生徒は俺にぶつかった勢いで後ろに倒れていく、手を伸ばすものの、届かずに女子生徒は尻餅をつく形で倒れてしまった。

「sorry.大丈夫か?」

どうやら角を曲がってきたのに気づかずに、ぶつかってしまったらしい。どちらが悪いとも言えないが、体格の差を考えると、自分が悪い気がしてきた。

「う、いた・・・い」

平均よりもやや低いと思われる小柄な体型の生徒は、打ってしまったらしい所をさすっている。

「立てるか?」

そう言って手を差し伸ばすと、俺の存在に今気づいた、とでも言うような顔でその生徒は見てきた。そして伸ばした手を見る、こっちは小動物を見ている気分だ。

「あ・・・い、いや」
「What?」

女子生徒が何を言っているか聞き取れず、聞き返すと、女子生徒はいきなり立ち上がった。それはもう俊敏な動きだった為、思わず手を引っ込めてしまった。

「い、いちおうお礼だけは言っとく、けど私だけが悪いわけじゃないんだから!」

随分と言葉を噛みながら、女子生徒はそう捲くし立てた。
最後に小さな声で「あ、ありがとう」と言うと、そのまま方向転換して走り去ってしまった。

「なんだ今の」

頭が今の出来事に付いていけず、女子生徒がいた場所を数秒見つめていた。一応お礼はされたみたいだが、随分と余計な言葉があったようだ。女子生徒の言葉を思い出すと、笑いがこみ上げてくる、さっきのは一種の照れ隠しなのかもしれない。

「ん?これは」

女子生徒がいた場所には、彼女が来るまでは無かった物が落ちていた。それを拾って見ると、二つ折りの財布だった。もしかすると、いやもしかしなくてもさっきの女子生徒が落としたのだろう。赤いリボンが小さく付いているその財布は、さっきの女子生徒にしては意外な好みだった。
ありがちな展開だな、と頭の中で笑いながら、その財布をポケットに突っ込んだ。