千景 | ナノ




最近名前の様子が変だ、どう変かと聞かれれば元気がねえ。俺やに対する態度はあまり変わらないが、風間に対する態度がおかしい。前までは鬱陶しいくれえに何かって言うと「千景様、千景様」って言ってたが、最近はあまりそれが無い。むしろ避けている気すらする。親離れするように、名前に風間離れが来たのだと思ったが、腑に落ちねえ。風間は風間で、見栄張って何も聞かねえが、今の状況に不振がっているのは確かだ。

「おーい、名前」

そんな訳で、俺がこんな役を買って出なければならない。決して風間が心配な訳じゃねえ、名前が心配なんだ。

「あ、匡ちゃん、どうかした?」
「団子食うか?」

雑巾掛けをしていた名前を呼び止めて、持っていた団子を差し出す。すると、嬉しそうに「ちょっと手洗ってくる」と走っていった、こういう所は前と変わんねえんだよな。

「匡ちゃんお茶飲むー?」

ひょこり、と顔だけを出してこちらを伺う名前に「おうよ」と返事をすると、笑顔で頷いてから顔を引っ込めた。

「おまたせ」

しばらくしてから名前は湯呑みを乗せた盆を抱えて戻ってきた、湯呑みからは湯気がたっている。

「団子おいしそうだね」
「おお、俺様がわざわざ買ってきてやったんだから、当たり前だろ」
「さすが匡ちゃん」

幸せそうな笑顔で団子を口に運ぶ名前、これで少しは元気が出てくれるとありがたい。

「でだな、名前」
「ん?」
「お前最近元気無いだろ?何かあったのか」

名前は俺を見て「何も無いよ」と笑った、こいつ何時からこんな笑い方をするようになったのか。

「あんまり無理すんなよ」

名前の髪をやや乱暴に撫でた、細い名前の髪はすぐにぐしゃぐしゃになってしまう。けれど名前はそれを気にした様子は無かった。

「ありがとう、匡ちゃん」

さっきよりはマシになった空気に少しだけ安心した、言える事は言ったと名前が持ってきた茶を口に運ぶ。こうしてだらだらと時間が過ぎるのが、一番良いと思ったがどうやら現実はそんなに甘くないようだった。

「おい」

和やかな空気は一変して、名前が緊張したように背筋を伸ばしたのが分かった。

「千景さま…」

縁側に気配を消して現れた風間は、名前の態度に怪訝そうに眉を寄せた。

「明日、お前と俺で新選組に行く」

用意しておけ、と言うと風間は身を翻して立ち去っていった。名前の返答も聞かずに行くなんて、さすが風間だ。

「名前、大丈夫か?」

何か考え込むように、俯く名前に問いかけると力無く返事が返ってくる。名前が風間の事で悩んでいるのは明らかだったが、名前に聞いても何も話さないだろう。名前はそういう奴だ。

「何かあったら俺に言えよ」

どうやら自分は名前に妹のような感情を抱いているようだ、風間も名前も不器用で見ているこっちが面倒になるが、いつか二人が素直になる日が来れば良いと思った。

「(それまでにかなり時間かかりそうだけどな)」

今にも泣きそうな名前を見て、それまでに何も起きないと良いんだけどな、とため息をついた。