千景 | ナノ




私が鬼の住処に来てから結構な時間が経った。最初の頃は迷ったり迷ったり迷ったりで苦労の連続だったけど、今は迷う事はあまり無く、平和に過ごしている。が、相変わらず雑用ばかりやっていて、この年の女としてどうかと思うけど、これも千景様の為と思えば全然辛くない。今日は風呂場の掃除という事で、肩に掃除用具一式を担いで風呂場までの道のりを歩いているところだ。男ばっかの屋敷の風呂掃除やらせるなんて、さすが鬼。髪の毛とか落ちてたら気持ち悪すぎる、ち、千景様のだったら良いけど…!

気分を落としながら風呂場に着いた、最初は掃かなくてはいけない、担いでいた掃除用具から箒を引っこ抜くと、風呂場の戸を引いた。

ガラッ

「…………」

「……お前か」

「ぎゃああああああああああ」

そこには思いもよらない光景が広がっていた、千景が裸で立っていた。ちょうど風呂を終えて着替える前だったらしく、何も纏っていない状態でいたのだ。名前は戸を開けた瞬間目に飛び込んできたものに、箒片手に数秒放心状態になるが、千景の言葉で我に返り、あわてて戸を閉めた。

(どうしよう大変な事をしてしまった、いや、待て、落ち着け。うわっどうしよう、だってまさか、み、見ちゃった!千景様の裸見ちゃった!背中!凄い背中綺麗だった!じゃなくてっ違ういや違わないけど、謝るべきだよね?千景様気にしてなさそうだったけど、謝るべきだよね、うわあああ駄目だ私、今見た物は頭から消すんだ!そうじゃないと、後三日は寝られない気がする!)

「ち、千景様申し訳ありません、あの今見た事は、水に流します、って意味違う。じゃなくて、あの見なかった事にします!本当に背中綺麗ですね!て違う違う、本当に申し訳ありません!蹴りでも何でもお受けするんで、悪気は決してなかったんです、ただ掃除しようかなという良心から

ガラッ

「そこまで気にする事では無いだろう」

「ち、千景様…!」

着替えを終えたらしい千景様が風呂場から出てきた。千景に謝ろうと必死に言葉を探す名前を一瞥して、千景は対して気にしていない事を告げる。それでも自分がした事が許せないでいる名前は、千景にしがみつく様にして謝る。

「…いい加減うっとおしいぞ」

「だって千景様の裸見るのは、一夜を共に過ごす時と決めてぶほあっ

「仮にも女が軽々しくそういう言葉を使うな」

「千景様いつからそんな真面目になったんですか!」

叩かれた頭を抑えながら涙目で訴える名前に少し頭が痛くなりながら、千景は無言でその様子を見てから「…はあ」とため息を付くき、そのまま名前に背を向け、廊下を歩いていった。

残された名前は千景のいつもと違う様子に疑問を覚えながら、「千景様の背中綺麗だったな」、とぽつんと零して風呂場の戸をもう一度開け、掃除に取り掛かった。