千景 | ナノ




じいっと効果音が付きそうな程に、見つめてくる、いや表現が甘いな、睨んでくるというのが近いと思える程に、こちらを見てくる少女。それを気にしないようになるべく気を逸らしていたのだが、そろそろ我慢の限界が来た。かた、と握っていた筆を置いて障子にくっ付くようにして、こちらを見ているであろう少女に視線を向けるため、後ろを振り向いた。

「何か用か?」

障子にくっ付いていた少女、名前は千景が突然振り返った事に驚いて肩を震わせた。それに加えて千景の声がいつもより低い事もあり、心音が急速に速度を上げる。

「い、いえ特に用はありません」

「……用が無いのに、何故そこにいる」

「風間様の美しい背中に見とれていました!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

まるで何かを高らかに宣言するように、手をビシッと挙げる名前を、千景の紅い瞳が刺すように睨み付けた。

「(こいつを拾ったのは間違いだったか) 帰れ」

「私の帰る場所は風間様の元にございます!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ドスッ

「げばっ、か、風間様いきなり何ですか!てか、フンドシ見え ピシャッ

千景の蹴りが名前の額に見事に決まった、その勢いで名前は縁側から転げ落ち、地面に頭を打ち付ける。今の蹴りぐらい避けろ、と思った千景だが謝る気はさらさらないので、無表情のまま名前を見下ろす。普通の人間ならば痛みで動けなくなりそうだが、名前は中々痛みに鈍く、転がった後辛そうに咳き込むが、すぐに何事も無かったのように、復活した。しかし名前が丈夫な事は予想済みで、その後ぎゃあぎゃあ騒ぐのも目に見えていた為、名前が言葉を言い終わる前に障子を閉めた。最後の方に変態発言が聞こえたが、聞かなかった事にしておこう。

「(毎日毎日良くあれだけ騒いでいられるものだ)」


「風間様!今日のフンドシはしましまですね!」
「そんなわけがあるか」