学園BASARA | ナノ




私の鳩尾に喰らわせたパンチから立ち直った伊達政宗は、それにもめげずにしつこいくらい自己アピールをしてくる為、HRが終わってからの休み時間にクラスの人と仲良くなろう作戦は失敗に終わった、取り合えず早くクラスに馴染もうという目論みだったのに、伊達政宗にそれはあっさりと壊された。私の時間を返せこの野郎。そして今は休み時間が終わって、1時間目の授業がスタートした所だ。「起立、礼」とどこの学校もやるような挨拶をすると、一斉にみんな着席する。何だかスタートから失敗した気がするが、次の休み時間はがんばろう、と決意を新たに教科書を出す為、机の中に手を突っ込んだ。けれど、手に触れるはずの教科書の感触は無く、空気を掴んだ……あ、そうだ私教科書貰ってないじゃん、ちょっと片倉先生絶対私に教科書渡すの忘れてるよ!何だか片倉先生はしっかり者に見えて、うっかり屋さんのようだ。やばい、なんか今の言い方凄い可愛いぞ!…ってそんな事はどうでも良い、取り合えず先生に言おう、と教卓の方を向くとそこには凄い怖そうなおじさんがいた。いや、なんかおじさんという例えをすると、弱弱しく聞こえるかもしれない、周りの男子生徒が細くてごぼうに見える程、毎日鍛えてますという体格をしているおじさんだ……声かける勇気がないんだけど!

「では、授業を始める。教科書23ページを開け」

しかもいきなり教科書の出番だよ!まあ季節的に授業も微妙に進んでるんだよね…自分のタイミングの悪さを呪いながら、仕方無く勇気を出して言うしかないという結論に達した。

「あの、すいません私まだ「お館様ァアアア!!」

窓ガラスが割れてしまうのではと思われる程の声の大きさで、いきなり立ち上がり叫ぶ男子生徒によって、私の勇気は粉々に砕かれた。

「今日も某、お館様の授業、一言も漏らさぬよう心して臨むでござるうう」

今時いるのかというくらいの昔言葉を使った、まさに熱血系な男子生徒が、目をきらきらと輝かせて、怖いおじさんに向かって何やら情熱を訴えている。

「うむ幸村良い心掛けだ、だが」

怖いおじさん、いや先生は言葉を一端切ると、私の3個前に座っている熱血系の男子生徒の元に歩き出した、クラスの人達はいつもの事なのか、そのやり取りをぼうっと見ているだけで、はらはらしているのは私だけらしい。隣りからは「あー今日も暑苦しいぜ」とうんざりしたような、声が発せられた。

「授業中は私語を慎めと何度言えば解るのだっ!」

「うぶあっ」

鈍い音と共に、熱血系の男子生徒は横に倒れた。この生徒を殴ろうものなら、即PTAから苦情がくる世の中には考えられないような、熱意の溢れたパンチが綺麗に男子生徒の頬に決まった。いや、これ昔の先生でもやらないよね。ガッターンと大きな音を経てて、机と椅子と共に吹っ飛んだ男子生徒に意識があるのかとても心配だ。そして、何故か男子生徒の隣りの席は空席だった、きっとわざと空席にしてあるのだろう。隣りに誰か座っていようものなら被害が大きすぎる。

「申し訳ございませぬ、お館様!」

でも、熱血系の男の子の復活は凄い早かった、自分が喰らってたら絶対死ぬ自信がある。殴られた後直ぐに起き上がると、パンチに負けじと迫力ある声で謝っていた。その様子を見て先生は「うむ、解れば良いのだ」とうなずいていた。毎日このやり取りがあるのだろうか。

「してそこの転校生か?どうした」

「(あ、聞こえてたんだ)まだ教科書貰ってないんですけど」

「そうか、では隣りに見せて貰え」

まあそうなるであろうと予想はしてたが、チラッと隣りに視線を向けると、やたら楽しそうに机をくっ付けてくる伊達政宗の姿が見えたので、凄い嫌気が差した。

「ねえねえ」

「…?我に何か用か」

「教科書見せて貰って良い?」

「おいおい、Honey冗談にしちゃ笑えないぜ」

隣りの人、つまり伊達政宗とは反対側の隣りに座っている男の子に教科書を借りることにした。すると、伊達政宗は大げさに額に手を当てて、オーバーリアクションを取っている。この人自分が気持ち悪い事に気づいているのだろうか

「伊達に見せて貰えば「駄目駄目、お願いだから見せてください」

隣の席の男の子は、見た感じ真面目そうで、髪の毛さらさらの美形な子だった。確かに右隣の子に教科書を借りるというのは可笑しいかもしれないが、伊達政宗に見せて貰うよりは良い、だって気持ち悪いもん。

「我は別に構わぬが」

「やった!じゃあ机くっつけて「なー毛利、教科書見せてくんね?」

順調に確実に良い方向に物事が進んでいたはずだった、けれど人生に壁的な存在は不可欠なのだろうか、私の言葉を遮ったのは毛利君(と呼ばせてもらおう)の私とは反対の隣の席の子、まさか私以外に教科書が無い子がいるなんて想定外だ!どうする、私。しかも、大変だ。その隣りの席の子髪の毛銀髪だし、何というか伊達政宗と似たような雰囲気が出ている、つまりは不良な空気が出ている。(こんなの勝てる気しないじゃないか!)まさかの状況に、伊達政宗は嬉しそうにニヤリと笑うし、毛利君は無表情で隣りを見るし、その隣りの子は空気が固まった事に気づいたのか、クエスチョンマークを頭に浮かべた。