学園BASARA | ナノ




「転校生、入ってこい」

まさか自分がこんなベタな転校生の登場シーンをやるなんて思ってもみなかった、何で廊下で待機するの?必要性あるの?この行動。これでみんなの驚きが増すとかそういう目的なのかな、いやいやそれにしても緊張しまくりのこっちの身にもなってほしいよ!しかも担任の先生がどう見ても危ない感じで、きっと根は良い人なんだろうけど、オールバックだし、顔に傷あるし、とても怖かったんですけど!そんな人に「此処で待ってろ」とか言われたら、はいって返事しかできないよね!私悪くないよね、あ、良い悪いって問題じゃないんだけど、ってああ、こんな事考えてないで、教室に入らなければ、どうしよう、此処はテンションを上げて自己紹介するべきなんだろうか、それともまあ普通に名前言えば良いのだろうか、誰か転校生のための台本作ってください。

「転校生の名字名前だ、仲良くしてやれ」

教室に入った瞬間のみんなの視線が、ぐさぐさと突き刺さって、緊張はピークに達した。確か担任の片倉先生だったっけ?が黒板にそれはそれは綺麗なかっこいい字で私の名前を書いてくれて、書く人によって私の名前も素敵に見えるものだな、とか思っていると、片倉先生が「自己紹介しろ」と言ってきた。遂にこの時が来た、とごくりと唾を飲んで、教室全体を見るように目線を変えた。たかが自己紹介にこんなに緊張している自分が気持ち悪く思えながらも、「名字名前です、よろしくお願いします」といたって普通に自己紹介をして、ぺこりと頭を下げた。少し沈黙が流れてから、パチパチと何処からか始まった拍手が教室を包んだ。それに少し安心しながら、頭を上げて教室をゆっくり見渡した。何だか髪の色からして個性が溢れていて、このクラスでやっていけるのか不安になる。

「じゃあ、そうだな、席は…」

片倉先生が教室を見渡すと、すっと1人の手が挙がった。

「Hey!小十郎、此処空いてるぜ」

みんなが黙っている中、そんな空気をもろともせずに手を挙げた人物は、窓側の一番後ろの席の人だった、その隣りとなると凄い良い席じゃないか!と内心ガッツポーズをする。

「そうだな、じゃあ名字、あそこの席に行け」

片倉先生も了解してくれて、軽い足取りでその席に向かった。途中ですれ違う人達が、笑いかけてくれたり、「よろしくね」とか言ってくれたりして、良い人ばっかりじゃないか!と自然と笑顔になった。何だかこのクラスで良かった気もする。

「My honey!隣りになれて良かったぜ」

「………………」

固まった、それまでは笑顔で心もうきうきしていたのに、自分の席に付いた瞬間に固まった。さっき手を挙げた人が、発音の良い英語で「My honey」と言ってきたのもあるけど、その人は制服の着方からして不良オーラが全開で、何個かボタンが開けられたシャツから綺麗な鎖骨が見えていた、(別に見とれてなんかない!)まあ、それなら今時の高校生なんてそんなものだろうから良いけど、なんとその人は右目に眼帯をしていた。不良というより、もっと性質が悪い気がする。もしや、片倉先生の部下とか!いや、でもさっき小十郎とか言ってたし、もしかして立場が反対…?え、2人共グルだったのか

「伊達政宗だ、よろしくな」

ずいっと顔を近づけられて言われて、不覚にもドキッと来たが、冷静を装って「どうも」と頭を少し下げた。すると伊達政宗は「Hum...」と顔を近づけたまま、何か考えるように私を上から下まで見てきて、パチパチと瞬きをすると、ニヤリと悪人面な笑顔を浮かべた。

「Perfect!bustもwaistもhipも俺好みだ、まあbustはもう少しあっても ドスッ

綺麗に伊達政宗の鳩尾に、私のパンチが入った。痛そうにうめき声を上げて鳩尾を押さえる伊達政宗、まさか転校初日早々セクハラをされるとは予想しなかった、これからの高校生活が凄い心配だ。いや、クラスの人はみんな良い人そうだから、この隣りの席の変態とは関わらないようにすれば良いと思う。