レギュラス | ナノ

名前とレギュラスが帰ると、マーサはジャムを作る準備をしていた。名前はそれを見て、たくさん野いちごが入った籠を嬉しそうにマーサに差し出した。

「じゃあ二人にも手伝って貰おうかね」

「もちろんだよ!ね、レギュラス」

レギュラスはジャムの作り方の知識は無かったが、簡単な作業なら出来るだろうと頷いた。

「名前はいつものお願いね」

「はーい」

名前は待ってましたと言わんばかりに、積まれた野いちご
に手をかざした。レギュラスは名前の不自然な行動に、何をするのかとのぞき込んだ。

ふわり、と野いちごが一粒浮いたかと思うと、瞬間積まれていた野いちごが全て宙に浮いた。

「魔、法・・・?」

レギュラスはその光景に呆気に取られた。自分は魔法が使えなかった、けれど名前が今使っているのは魔法では無いのか。

「名前さんこれうっ・・・!」

レギュラスは言葉の途中で詰まってしまった、宙に浮いた野いちごから小さな虫が出てきたからだ。虫を見るのは慣れているが、いきなり現れると驚いてしまう。名前は野いちごにかざした手を窓に向けた、すると野いちごから出てきた虫だけが窓の外に運ばれていく。

「あはは、レギュラス驚いた?」

名前はレギュラスの少し間抜けな顔を見て、楽しそうに笑った。

「魔法使えるんですか?」

「あ、ちょっと機嫌悪くなった!」

名前が茶化すように言うと、レギュラスは眉間に皺を寄せたので、そんなに怒らないでよと名前は慌てた様子で説明を始めた

「実はね、レギュラスのいた世界の魔法は使えないんだけど、此処の世界には別の魔法があるの」

「別の魔法ですか」

「そう、此処では杖は使わないんだよ」

大方予想していた答えだったが、杖を使わないとなると自分にはその魔法は使えそうに無い

「レギュラスもやってみる?」

名前は野いちごの山を指さした

「そんな唐突に出来るものなんですか?」

「心の中で唱えれば良いの、レギュラスにも出来るよ」

名前曰く、心の中で浮かべと唱えれば魔法は発動するらしい、呪文と杖がいらないなんて、今までを考えるとありえないのだが

「(浮かべ)」

レギュラスがそう心の中で唱えた瞬間、手のひらから暖かな光が溢れるのを感じた、と同時に積まれた野いちごがふわりと浮いたのだ

「レギュ!出来たね、さすが!」

「え」

レギュラスが気を抜いた瞬間に、野いちごは一斉に落ちてしまった。半ば放心しているレギュラスに名前は気抜いたら駄目だよ、と笑っていてレギュラスの変化に気づいていないようだ。

「(レギュ、って)」

気を抜いてしまったのは、名前がレギュラスの事をレギュと呼んだからだ。レギュラス自身何故その呼び方に反応してしまったのか分からない、けれど頭の何処かでその呼び方に懐かしさを感じたのだ。

「すいません、なんかぼうっとしてしまって」

「いちごは無事だから許してあげよう!おばあちゃん、出来たよ」

名前はマーサに野いちごを差し出すと、レギュラスを手招きして、マーサのすぐ横に立った。

「おばあちゃんの作ってるとこ見るの楽しいんだよ」

「今日はレギュラス君もいる事だから、いつもよりおいしくしなくちゃね」

マーサは野いちごを鍋に移すと、手慣れた動作で調理を始めた。マーサが鍋の上で手をかざすと白い砂糖が鍋に入れられ、鍋の下に手を流すと赤い火が点いた。魔法を見ているというより手品を見ている感覚だ、流れるような動作にレギュラスと名前は魅入っていた。

「良い匂い」

名前は鍋から漂ってくる甘い香りに、頬を緩めた。

「名前、ちょっと来て」

マーサは最後の仕上げをする為に名前を鍋の前に立たせた。

「おいしくなるように、仕上げお願いね」

名前は嬉しそうに頷くと、鍋の上に手を置いて魔法を使った。小さな光の粒が名前の手から、鍋の中に落ちていった。

「きっとおいしいジャムが出来たね、明日はこれでジャムサンドを作ってあげるから、花畑に行っておいで」

「おばあちゃんありがとう!レギュ、明日もお出かけしようね」

楽しそうにはしゃぐ名前を見ていると、レギュラスも自然と明日が楽しみになっていた。自分の元いた世界でしてきた事が全て夢であったような気までしてくる、忘れてはいけない事なのに、自分がするべき事はあの方の元で仕える事だ。

「レギュ!部屋案内してあげるからこっちきて!」

けれど、名前の笑顔を見ていると1週間くらいなら、こうして過ごしていたいと思ってしまうのだ。

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