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「おとぎばなしみたいでしょう?」 名前は野いちごを摘みながら、レギュラスに話しかけた。 「此処に来る人はみんなそうやって言うの」 名前の家から歩いてそう掛からないこの場所には、何日かかっても食べ切れなさそうな野いちごが実っていた。 「そうですね、少し驚きました」 レギュラスも名前の隣に座り、野いちごを摘んでいく。それを籠に入れていくだけの簡単な作業だ。 「よし、このくらいで良いかな」 他愛も無い会話をしながら作業をしていたら、籠の中は野いちごでいっぱいになった。赤い実が日の光を受けて、キラキラと反射している。名前はこれでジャムたくさん出来るかなと笑顔で籠の中身を見つめていた。 「やっぱりジャムにするんですか」 「そうだよ、おばあちゃんの作るジャムとってもおいしいの」 名前の嬉しそうな様子を見て、レギュラスは笑顔の耐えない人だな、と思った。心の底から楽しそうに笑う名前に、レギュラスも吊られて笑顔になってしまう。不思議な感覚だった、名前とレギュラスは初対面のはずなのに、ずっと一緒にいた存在のような。 「あのね、レギュラス」 名前は籠に入った野いちごに布を被せながら、笑顔にどこか憂いを帯びた表情を浮かべた。 「私思うんだけど、此処に来る人はみんな休憩しに来たんだと思うの」 「休憩、ですか・・・?」 「うん、ちょっと疲れちゃった人が来るんじゃないかなって。だからね、楽しんで行って欲しいんだ。レギュラスがいた世界の事はちょっとだけ忘れて」 ね?と首を傾げる名前、可笑しな話だというのに、レギュラスは不思議と名前の言っている事が、正しいのではないとか思えた。自分が疲れているのかどうかは分からないが、此処の世界に来てしまったからには、此処の世界の生活をしてみても良いように思えた。 「お世話になりっぱなしですが、よろしくお願いします」 レギュラスがそう言うと、名前は満足そうに微笑んだ。 → |