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此処は何処だろうか、レギュラスは自分の目の前に広がる透き通った晴れ空をぼんやりと見つめながらそう思った。 地面に寝転がっていた状態から半身を起こすと、視界を占めていた空が半分になり、もう半分には森が広がっていた。とても綺麗な森だった、木々は黄緑の葉を纏い、所々に赤いや桃色の美を付けていた。その光景は見た事が無いほどに平和だった。 気が付けば此処にいた、そう表現するのが一番しっくりくる。この場所は今までに見たことが無い場所で、どうやって自分がこの場所に来たのかどうしても思い出せないのだ。 何をすれば良いのか分からず、しばらくの間座っていると、少し離れた所から草を踏む足音がした。レギュラスは咄嗟に腰にある杖を握ると、立ち上がり音のする方を見つめた。その足音は段々と自分の方に向かってきていた、闇払いかもしれないと杖を握る手に力を込める。 「――…あ、」 木の間から出てきたのは少女だった、それも自分と同じくらいの歳のように見える。少女はレギュラスを見ると、にこりと微笑んだ。 「こんにちは、初めまして」 少女はレギュラスに向かってまずは少し丁寧な挨拶をした、敵では無さそうな雰囲気に少しだけ緊張を緩めながら、レギュラスもそれに答えるように軽く頭を下げた。 「あの、貴方は?」 誰ですか、と続けようとしたもののそれはどうも可笑しな質問に思え、途中で言葉が途切れてしまう。 「私は、名前。貴方は?」 少女は何も感じていないようで、笑顔のまま答えてきた。レギュラスは少女の問いに答えるのに躊躇いがあった、もしかしたら少女はマグルかもしれない、そんな相手に本名を名乗る必要が無いのではないかと。 そんなレギュラスの警戒するような姿勢に、名前はふふ、と笑みをこぼした。 「そうだね、いきなり会った相手に名前教えるなんて可笑しいよね」 屈託の無い笑みだと、レギュラスは思った。自分が過ごしてきた世界とはまるで違う、暖かな笑い方だった。 「あのね、信じられないとは思うんだけど」 名前と名乗った少女は、楽しそうに何か秘密事を話すような、いたずらを始めるような表情をしていた。 「此処にはね、たまに貴方みたいに迷いこんで来る人がいるの」 「え・・・?」 おとぎ話をしているのか、冗談を言っているのか、レギュラスには判断が出来なかった。どちらにしてもこの少女がふざけているのは間違い無い。 「冗談か何かですか?確かに僕は何故此処に来たのか、覚えてないんです、だから」 もしかすると、とレギュラスは頭の中である考えが浮かんだ。この少女かもしくは他の人でも、自分は此処に連れて来られたのでは無いか。 「貴方はマグルですか?」 レギュラスは隠していた杖を少女に向けた。人に杖を向けて、呪文を唱えるなんてもう慣れた動作だった、マグルだったらこの動作の意味は分からないだろう、魔法使いなら 「マグルでも無いし、マグルじゃない訳でも無いよ。それは貴方の世界の言葉でしょう?」 「冗談はやめてください」 「貴方の魔法は此処では使えないよ」 何を馬鹿げた事を言うのか、とレギュラスは心の中で笑った。そんな事がある筈が無い。 「ステューピファイ」 レギュラスは呪文を放った、はずだった。けれど杖の先から出るはずの赤い閃光は出ずに、少女は何も無かったように立っている。 「ステューピファイ!」 狼狽しながらレギュラスはもう一度失神呪文を唱えたが、何も起こらない。 「何故・・・」 自分の杖を見つめても、何も異変は無い。 「ね?使えないでしょ」 少女はレギュラスに近寄るが、レギュラスはそれに合わせて数歩後ろに下がった。 「私の話聞く気になったでしょ?」 少女の問いにレギュラスは頷くしかなかった。 → |