レギュラス | ナノ

此処は何処だろう

ごぽり、ごぽりと強く水音が響く。水中なのだろうか、視界は暗く濁っていて、真っ黒な底のない何処かにゆっくりと落ちて行くようだ。

酷く頭痛がする

この黒は何処まで続いているのだろう、このままずっと落ちていくのかと思うとぞっとする。けれどもうどうでも良いのかもしれない。そう、何も恐れることは無いのだ。この黒にも終わりが来る

ああ、そうかこれは

***

ガサッ、と何かが動く気配がしてレギュラスは後ろを振り返ったが、そこには歩いてきた道が続いているだけで、静かな夜の音で満ちていた。立ち止まったレギュラスに前を歩いていた名前が声をかける、それに答えてレギュラスは再び足を進ませた。

今の時間は夜の二時だ、昼間言っていた外出なのだが、詳しい内容はレギュラスに知らされていない。まだ少しだけ睡魔が残っている体で、緩いペースで歩いている状況だ。

「レギュ、もうちょっとだから頑張って」
「何しに行くかは教えてくれないんですね」
「見てからのお楽しみという事で」

楽しそうに笑う名前を見ると、本当にサプライズ事が好きだというのが伝わってくる。もしホグワーツにいたら、兄さん達とさぞ気があったに違いない。

「場所はね、昨日行った海なんだけど」
「そうなんですか」

暗くて気がつかなかったが、良く見ると昨日というよりもう二時なのだから一昨日だが、海に行く時に通った道のようだ。やはり星を観に行くのかもしれないな、とレギュラスは思った。上を見上げれば普段見られない数の星が輝いている、海のような見渡しが良い場所に行けばなおのことだろう。

「すっごい綺麗なのは確かだから」
「楽しみです」

そろそろ海が見えてくる頃だろうか、夜の森をひんやりとした風が揺らしている。海から吹いてくる風なのだろう、とても心地が良い。

「行こう」

名前は後ろを振り返り、レギュラスの手を握った。待ちきれないと言わんばかりに、レギュラスの手を引いて名前は走り出す。森が視界の隅から消えていく、全速力で走っているのか気がつけば、シャリシャリと足下から砂浜を踏む音がした。ブレる視界が妙に明るいのに気がついた時には、名前の足が止まっていた。砂浜に出たのだ。

「着いたよレギュ」

目の前に現れた海は昼間に見たときとはまったく違っていた、空には数え切れない星が輝いていて、海は波の音と無数の光で満ちていた。

海が光っていた。

それは月明かりを受けて光っている訳ではなく、海そのものが光っていた。紫や青やピンク、まるでライトアップされたようだ。波の揺れで光は形を変え、ゆらゆらと不思議な光景を作り出していた。

レギュラスは思わず波打ち際まで行き、海を見渡す。聞こえるのは波の音と、自分の心臓の音。水平線の彼方まで、海はいつか写真で見た宇宙のようだった。

「此処の砂は、水を通して見ると光るんだって。夜にならないと分からないんだけどね」

名前は靴を脱いで、ゆっくりと小さな波を作りながら海の中を歩き始めた。海からの無数の光が名前を彩る。空の星を背に、宇宙のような海を歩く姿は、現実とは思えない光景と浮遊感で出来ていた。

レギュラスは目を細めた、この世界はとても眩しくて、こんなにも綺麗なのだ。

「レギュもおいでよ」

レギュラスも靴を脱ぎ、名前の隣まで歩いた。ふくらはぎの高さまで海に足が浸かっている。

「この島は驚く事ばかりですね」
「そう?喜んで貰えたならそれだけで良いんだけど」
「はい、とても綺麗です」

名前が小さく笑うのを見てから、レギュラスは視線を下に落とした。透明な海の水が、砂からの光を受けて淡く自分の足を濁らせて見せている。確かに自分の足は水の冷たさを感じていて、砂を踏む感触がする。この海に自分は感動しているし、きっと目に焼き付いて離れないだろう。

「名前さん」
「うん?何?」

いつもより名前の声音が優しい、風の音と名前の声が響き合って、すとん、と耳に落ちていく。レギュラスは言葉にするのを躊躇った、今から言おうとしている事は、果たして言って良いのか悪いのか、レギュラスには分からなかった。けれど、自分に残された時間は少ないのだろう、名前が言っていた一週間という数字は、もう半分以上過ぎている。

レギュラスはすっと息を小さく吸って、隣の名前と視線を交わらせた。

そうだ、此処は

「此処は死後の世界なのですか?」


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