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名前の家に着く頃にはもう日が暮れていた。レギュラスは少しだけ疲労を感じていた、けれど名前の家に入ると外よりも暖かい温度に、疲れが取れていくようだった。 「おばあちゃん、ただいま!」 名前はドアを開けると、勢い良く中に飛び込んでいった。相変わらず元気が余っているようだ 「シチューだ!」 ほわり、とおいしそうな匂いと共に湯気をたてるのを見て名前は瞳を輝かせてテーブルの上を見る。そんな名前を見てやっぱり食い意地張ってるな、とレギュラスは笑った。 「レギュ、早く!」と呼ぶ名前の声に急かされ、レギュラスも名前の隣に座った。 赤いギンガムチェックのテーブルクロスに、木製の皿によそわれたクリーム色のシチューがとても食欲を刺激され、名前が食事を楽しみにするのは当たり前の事のように思えた。 「ほらほら、まずは手を洗って」 マーサに指摘され、名前とレギュラスは二人で「あ」と間抜けな声を出す。 「レギュも早くシチュー食べたかったんだね、あはは食い意地張ってるー」 手を洗いながら名前にそう言われ、レギュラスは言い返せなかった。 「二人とも冷めないうちに食べなさい」 「はーい!ありがとうおばちゃん」 席に勢い良く着いてから「いただきます」と手を合わせ、名前はすぐにシチューに手をつけた。名前のおいしそうに食べる様子を見てから、レギュラスもシチューを口に運んだ。じわり、と口に広がるシチューの味、濃い目の味でけれどしつこくなく、レギュラスもそのおいしさに頬を緩める。 「おいしいかい?」 マーサに尋ねられて、レギュラスは素直に頷き「いつもごちそうさまです」とお礼を言った。 「おばあちゃんの料理はいつでもおいしいよ!」 「そうかい?ありがとうね」 レギュラスは自分の家の食事の風景を思い浮かべ、目の前の名前とマーサとのやり取りを比べ、その違いに驚くばかりだった。レギュラスが二人のやり取りを見ていると、ふいにマーサが顔を上げ、レギュラスと目を合わせた。レギュラスはいきなり目が合い、少し驚くがマーサはレギュラスを見て柔らかい笑みを浮かべた。 「名前、明日は海に行ってきたらどうだい?」 マーサはレギュラスに笑いかけてから、名前に視線を戻しそう提案した。名前はそれを聞くと「行きたい!」と全身で嬉さを表現するように、身を乗り出した。 「レギュラス君は海は好きかい?」 「え、あ、はい好きです」 「そうかい、良かった二人で楽しんでおいで」 「おばあちゃんは行かないの?」 「ふふ、そんな野暮な事はしないよ」 名前はマーサの言葉に少しがっかりしたようだったが、「帰ってきたら家のお手伝いさせてね」と頼んだ。レギュラスも心の中で何から何までお世話になっているから、何か手助けが出来れば良いな、と自分が出来そうな事を考えた。 「明日も暖かいみたいだから、海に泊まっておいで」 「え!本当に?良いの?」 「もちろんだよ」 海に泊まるとはどういう事だろう?とレギュラスは首を傾げた。 「レギュも行けば分かるよ!」 「そうですか、楽しみです」 今日丘の上から眺めた海を思い出し、レギュラスはそう答えた。遠くからでも分かる程海は青く綺麗だった。 名前は明日が楽しみで仕方無く、体を少しだけ揺らしながらシチューを口に運んでいた。マーサはそれを楽しそうに見つめ、レギュラスもその暖かい雰囲気を感じ微笑んでしまう。 レギュラスは頭の隅で、これが幸せな家庭なのだろうと思った。 → |