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「行くよ!レギュ!」 名前はレギュラスの背に両手を当てて、目の前にいるレギュラスに向かって叫んだ。レギュラスの了承を得る前に、名前はレギュラスの背中を力強く前に押した。 レギュラスは耳に風を切る音を感じると、自分の体がふわり、と浮くのを感じた。宙に投げ出されないように、両手はロープを握りしめる。足下に広がる花畑が少し遠くなって、少しの浮遊感を感じた、少しだけ宙に留まると今度は体が後ろに向かって落ち始める。レギュラスの後ろにいた名前は、すぐに横に避けてレギュラスとの衝突を避けた。 木の枝に結ばれたロープに、座る為の木材の椅子を付けた遊具、初めは嫌がっていたレギュラスを、名前はそれに半ば強制的に乗せた。 「レギュ、楽しいでしょ!」 18にもなってブランコで遊ぶなんて、と初めのうちは思ったレギュラスだったが、頬を切る風とその音の心地よさにもっと飛べるように、自然に足が助走を付け始めた。 『レギュ、私ね』 ふいに風を切る音に乗って、脳に少女の声が響いた。その少女の声を自分は知っているようで、知らないあの不思議な感覚だ。ブランコは徐々に速さを落としつつも、前へ後ろへ運動を繰り返す。 『す・・・い綺麗な・・・ーしょで・・・たいの』 脳に響いている声は雑音が邪魔をするように、所々良く聞こえない。この少女は一体誰なのだろうか、レギュラスは ぼんやりと霞む脳で考える。 「レギュ!」 名前が突然ぼうっとし始めたレギュラスの名前を呼ぶと、レギュラスの脳に響いていた少女の声が消えた。 「う、わっ」 少女の声が消え、脳もしっかりと風の音を捕らえ、目の前の景色を写すと、おもわずレギュラスは両手の力をめてしまった。 自分の体が一瞬宙に浮くのを感じ、次には落ちていくのを感じた。落ちてもこの高さなら、さほど痛みは無いだろうと頭では冷静な解釈が出来た。けれど、こういう時は時間がゆっくりと進んでいるようで、落ちるまでが長く感じられる。 「わ、わ、わああ うっぐ」 名前はレギュラスがまさか落ちるとは思わず、レギュラスが手を離した時には可笑しな声を上げてしまうが、反射で落ちそうになるレギュラスに手を伸ばした。結果、名前では支えきれずに、レギュラスがお腹に乗った状態で後ろに倒れ込んだ。 「うわああ、名前さん 何して・・・!」 名前が自分を支えようとするなんて、思いも寄らなかったレギュラスは、急いで名前の上から離れる。自分は男で名前は女だ、体格差はあるし体重差もある。そんな自分が名前の上に乗ってしまったら、痛いのは当然である。 「大丈夫ですか!すいません、ぼうっとしてしまって」 加えてレギュラスの英国紳士の血が、名前の上に乗ってしまったのが許せなかった。いつもは冷静なレギュラスだが、これには焦りを隠せずに名前に手を差し伸べながら、いつもより早口になってしまう。 「レ、レギュ・・・」 「何ですか?もしかして痛みで立てないとか・・・!すいません、気づかなくて。僕の首に手を回してください、持ち上げ「あははははは、何、それ、レギュ、ラスいつもっ・・・とちが、ははは」 レギュラスの対応に、名前は笑いを耐えていたのだが、あまりにもレギュラスが心配をするので、ついに我慢できなくなり、思い切り笑ってしまった。レギュラスは差し出した手をそのままに、名前が笑いすぎてお腹を抱えてる様子を理解出来ず、その場で固まってしまった。 「別に、そん、な痛く、ないから」 苦しい、と腹筋を押さえながら名前は立ち上がり、レギュラスに大丈夫という事を伝えるが、まだ笑いの方は収まってくれずに呼吸が思うようにいかず苦しい。 「………笑いすぎです」 拗ねたように小声でレギュラスがそう言うと、名前は余計に笑いが止まらなくなるがさすがにレギュラスが可哀想になり、名前は必死で笑いを止めた。 「ごめん、ごめんレギュのそういう所初めて見たから、嬉しくて」 「馬鹿にしてるように見えたんですが」 「違うよ!ただレギュが可愛く・・・て」 可愛いと言おうとすると、レギュラスの視線が刺さる。この状況で可愛いは駄目だったかと名前は口を噤んだ。 「と、取り合えずお腹も空いたしお昼にしよう!」 名前はレギュラスと目を合わさないように、背中を向けながらバスケットの中身を広げ始めた。レギュラスはその背中をじっと見ていたが、名前に見えないように少しだけ笑ってから、「手伝います」と言って名前の隣に座った。 → |