レギュラス | ナノ

名前の家の周りは森に囲まれていた。レギュラスはまだ名前の家周辺しか行った事が無い為、此処がどういった場所なのか解らなかったが、名前が言うには此処は島らしい。それに名前とマーサ以外は人は住んでいないようだ。

「レギュラスがいた世界は、此処とは違ったのかな?」

島についての質問をしていると、レギュラスの反応から名前はレギュラスがいた世界に興味が沸いたようで、逆に質問を返した。

「基本的には変わらないと思いますが、こんなに自然豊かな場所には行かなかったので」

名前たちが住む島は自然が豊かな事と、魔法の発動のさせ方以外は特に変わった事は無いように思えた。けれど、この島はレギュラスにとっては別世界のように、暖かなもので包まれていた。

今、レギュラスと名前が歩いているのは森の中で、木が覆い茂っているが、太陽の光が差し込み木漏れ日が漏れている為、暗くは無くむしろ明るくて眩しい。名前とレギュラスは木漏れ日の中を歩いて、花畑へ続く道を歩いていた。

「そっか!じゃあピクニック楽しみだね」

早く行こう、と名前は駆け足気味に道を進む。眩しい光を受けて進んでいく名前、その背中に、レギュラスは他の誰かの影が重なった気がして目を見開く。木漏れ日を受けて、名前の背中に誰かの残像が霞んで見える。けれど、レギュラスは残像が誰なのか分からない、知っているようで知らない不思議な感覚だった。

「レギュラス、早く!」

名前が振り向くと、残像のような影は消えた。一瞬見えた幻覚のような物に、レギュラスは戸惑いながらも名前の元へ走る。

「ほら、もう見えるよ」

名前は道の先を指で示した。森は道の先で終わっているようだった。太陽の光のせいで、花畑かどうかは解らないが、先には広く開けた空間が見える。

不意に名前はレギュラスの手を取ると、走り出した。レギュラスは驚いて声を出す前に体が引っ張られ、そのまま名前の走る速さに合わせて足が動き出す。

木々の間を走り、森の出口に着くと、そこからは大きく広がる一面が花で包まれた丘が広がっていた。

「結構広いでしょ?」

こんな場所が現実に存在するとは思っていなかった、レギュラスは広がる数々の花にただ息を漏らした。赤や白や黄や青、花の色でその丘は鮮やかに染まっていた。

「すごい、ですね」
「でしょ!あそこから見るともっと綺麗なんだよ」

名前は丘の一番高い位置を指さした、そこには大きな木が幅広く枝を広げていて、その下には寝転がっても余るくらいの木陰が出来ていた。花を踏まないか心配だったが、丘までは少し狭い道が出来ていて、その心配は無いようだった。

「この島で一番高いのが此処なんだ」

名前が大きく肺にため込むように息を吸う音がした、その隣でレギュラスは息を止める。自分の足下から広がっていく花畑は、時折吹く風に花びらを散らし、花畑を囲む若々しい森は葉を鳴らし、そしてこの島は真っ青な海に囲まれているのが、丘の上から見えた。海は水平線と地平線が混ざってしまう程、遠くまで広がっていた。その光景は息を呑む程に眩しく、レギュラスはその場で硬直してしまう。

この場に自分がいて良いのか、と思ってしまうほどにこの島は綺麗だった。足下から自分がこの世界を汚してしまう、そんな気さえしてくる。

「いつ来ても落ち着くな・・・」

名前の髪が風に踊らされるようになびいた。それに合わせて花びらも空に向かって飛んで行く。名前とレギュラスの後ろにある、丘の上の大きな木は葉音を奏でる。

まるで、本の中の世界だった。


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