小説 | ナノ

今日の天気は曇り、とても図書室日和だ。授業が全部終わると、友達と別れて急いで図書室に向かう。最近の日課が図書室通いなのを友達は知っているから、「勉強頑張って」と笑顔で送ってくれる。実際勉強なんてしてないから、成績が上がらず不振がられるかも、というのが最近の悩みだ。図書室の前に着くと、まずは鏡で乱れた髪を整える。次にスカートの襞を整える。よし、完璧だ。図書室に入って、真っ直ぐ向かうのは薬草学の本棚だ。上から三段目の右から12番目の分厚い本、それを手に持って壁に寄りかかる。これが最近の私の放課後の過ごし方だ。周りから見れば、ただの真面目な生徒に見えるかもしれなないけど、実はそうでは無い。この本の位置から少しだけ移動すると、死角になっていて周りからは見えないけれど、勉強をしている生徒がよく見えるのだ。ちらり、とそこから様子を伺うと、今日もいた。いつもの席に。

少し顔にかかる黒髪を耳にかけて、羽根ペンをすらすらと動かしている姿は、何かの作品を作っているようだ。どんな字を書くか見たことは無いけれど、きっと流れるような綺麗な字なのだろう。薬草学の全てと表紙に書いてある本を読むフリをして、ちょっとだけ盗み見をする、ああ、なんて幸せなんだろう、と本をぎゅっと抱きしめて幸せを感じている私は、そろそろ危ない気がするけど、決してストーカーでは無い。黒髪の人はレギュラス・ブラック、かの有名なブラック家の次男なのだれど、あまり人と関わる事が好きではないのか、放課後は1人で図書室で勉強している。それを見つけたのがちょうど一ヶ月前くらいで、その日から自分も図書室に通うことを決めたのだ。

見てるだけなんて、と思われるかも知れないが、これでも私は楽しいし、おまけに薬草学もちょっとだけ詳しくなった。流す程度に目を通すだけでも、知識は少し付いてきてくれるらしい。今日は56ページから読むとしよう、あまりレギュラス君を見すぎて、この事がバレてしまったら、恥ずかしいし、何よりもうこの時間が過ごせなくなるのが嫌なのだ。

図書室は静かだった、ゆっくりと時間が過ぎていく、時々普段は図書室に来ないような生徒が来て、騒がしくなるけどマダム・ポンフリーが注意すると、すぐに静かになる。夕日に照らされた図書室は眠くなる事もしばしばで、けれどそれが心地良いのだ。そろそろ手が痛くなってきたので、本来は本を取る為にある脚立に座らせてもらう。此処の本棚を利用する人はあまりいないから、文句を言われた事は無い。

「あの、すいません」

空耳かと思ったけれど、確かに人の声がした。

「すいません、そこの本を取りたいんですが」
「あ、ごめんなさ・・・」

本から目線を上げると、目の前に人が立っていた。私の後ろにある本を取りたいようで、完全に邪魔をしていた。謝りながら脚立から飛びのくと、スリザリンのネクタイが目に入った。続いて目線を上にやると、黒髪の整った顔。

ドサッ

思わず手に持っていた本を落としてしまった、仕方が無い。目の前にはさっきまで盗み見していたレギュラス君がいたのだから。慌てて落とした本を拾うと、レギュラス君から離れるように2、3歩後退する。

「大丈夫ですか?」

挙動不審な私を不思議そうな目で見るレギュラス君、頷くのが精一杯だった。

「その本いつも読んでますよね」

レギュラス君の視線が私が持っていた本に注がれた、動揺している私はレギュラス君の言っている事を理解するのに、大分時間を要してからハッとレギュラス君の顔を見上げた。

「どうして知ってるの・・・?」

そう問うと、レギュラス君はにこりと笑ってから、自分が先ほどまで座っていた席を指さしながら「あそこからだと、此処の場所が良く見えるんです」と答えた。

「貴方が此処でその本を読んでいるのも、良く見えます」

私は心臓が限界まで高鳴っているのを感じた、まさかレギュラス君が気づいているなんて思いもしなかったし、自分の事を見ていたなんて、恥ずかしくて仕方がない。

「ご、ごめんなさい。目障りだったよね?」
「そんな事は無いです、けどどうして此処で読んでるんですか?席ならたくさん空いてますよ」

貴方が見えるからです、等と言えるはずもなく、何て答えるか考えるも良い答え等浮かぶはずもなくて、「この場所が好きなんです」としか言えなかった。的を得ているとは思う、(レギュラス君が見える)この場所が好きなのは確かだ。

「そうですか、それは残念です・・・」
「え?」
「もし良ければ、あっちに座りませんかと誘おうと思ったのですが、此処が好きなら無理に誘えませんから」

「お邪魔してすいませんでした」とレギュラス君は軽く頭を下げると、私に背を向けた。私はとっさにレギュラス君のセーターを掴んだ、掴んだ後から何をしてるんだ私は、と思ったが後の祭りだ。レギュラス君は不思議そうに振り返る。

「あ、あの私、そっちで読みたいです」

我ながら勇気があると思う、レギュラス君にそう言い切ったのだから。言葉がおかしい気がするのは、今は置いておこう。

「そうですか」

レギュラス君はにこり、と笑うといつも座っている席に向かい始めた。もうレギュラス君の笑顔だけで十分なのに、隣に座って良い権利まで貰ってしまった。

レギュラス君はそれ以上喋る訳でも無く、席に戻ると読書を始めた。私の方はもちろん集中出来る訳が無く、難しい薬の作り方を説明してるページをただ目に入れているだけで、頭はレギュラス君の事でいっぱいだった。変な顔をしていないだろうか、とか髪に寝癖がついていないだろうか、とかばかりを気にしていたら時間が経つのなんてあっという間だった。

ぽつぽつ、と座っていた生徒が図書館を後にし始める。そろそろ寮に戻る時間だ、幸せな時間は直ぐに終わってしまうものだ、と思いながら自分が読んでいた本を閉じた。

「もう戻る時間ですか」
「そうだね、なんだか早かったな」

レギュラス君も読んでいた本を閉じて、壁に掛かっている時計を見た。ああ、ずっと隣にいられたら良いななんて傲慢な話だ。

「あの、良ければ名前教えて貰っても良いですか?」

私が席を立つと、レギュラス君がそう言ってきた。名前を聞かれるなんて思ってもみなかったから、一瞬固まってから「名前・名字です」と慌てながら言った。

「名前さんですか、僕はレギュラス・ブラックです」

レギュラス君の名前はずっと前から知っていたけど、初めて聞いた振りをした。でも、レギュラス君の名前はホグワーツでも有名だから、知っていてもおかしくはないのだ。

「あの、名前さん」

レギュラス君は言葉の続きを言うのを戸惑っているようだった、そんな様子が可愛くて胸の奥がくすぐられる感覚がした。

「良かったらまた一緒に座りませんか?」

時間が止まった、レギュラス君がそんな事言ってくれるなんて、今までの自分じゃ信じられない。そっと棚の陰から見ていた存在だったのに、そんなお誘いされるなんて。私は驚きのあまり固まってしまった。

「・・・すいません、いきなり変ですよね」

ごめんなさい、とレギュラス君が頭を少し下げるものだから、私はまた慌てて「喜んでお引き受けします!」と声高らかに叫んでしまった。

レギュラス君は私がそんな声を出したのにも関わらず、ふわりと微笑むと「よろしくお願いします」と言ったのだ。私はこれからの図書館生活に胸を踊らせながら「こちらこそ」と返した。
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