小説 | ナノ

僕と隣に座っている先輩を除いて、生徒はみんな自室に戻ってしまっている。そろそろ就寝時間も近い、談話室にある暖炉の前の二人掛けのソファは特等席だ、けれどこの時間になれば競争率は低い。それが分かっていたから僕と先輩がこの場所を獲得出来たのだ。

「レギュ、もっとこっち来て」

言われるがまま少し先輩との距離を縮めると、こてんと肩に先輩の頭が置かれる。「あったかいねー」と言われれば、何だか心臓がくすぐったくなるのを感じた。

「ココア飲む?」

湯気が少し出ているコップを差し出されるが、甘いものを飲みたい気分じゃなかった為「いいです」と断ると、先輩は少し拗ねたように「おいしいのに」と呟いた。

「レギュ寒くない?」

正直な所、先輩が隣に座っているから暑いくらいだ。

「大丈夫です」
「そう?レギュって変なとこで我慢するからね」

変なとこって何だろう、僕が首を傾げると、ふふと耳元で先輩の笑う声がした。

「こうやってレギュと過ごせるのも後2回か」

暖炉の火を優しい眼差しで見つめながら、先輩が悲しそうに呟いた。よく意味が理解出来なかったから、どうして2回なんですか?と問う。

「だって、冬は今年入れなかったら、2回しか来ないよ」

そういうことか、と納得した。先輩が卒業するまで、今年を入れなければ2年なのだ。

「寂しいな」

暖炉の火は僕と先輩を見守るように、パチパチと音を立てた。絶えず絶えず、燃えている。不規則なその音が、頭で弾けた。

「先輩、」

右手で先輩の左肩をソファに押しつけた、肩に乗っていた先輩の頭も必然的に離れる。驚く暁那の唇にそっと自分のものも押し当てた。

「僕が卒業したら、結婚しませんか?」

パチパチ、燃える暖炉が余計に僕の体温をあげてしまったようだ。先輩も僕のように真っ赤になったかと思うと、小さく頷いた。
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