小説 | ナノ

ふと思いつきました、飾ってあった写真立てを見えないように前に倒していた時です。さっき閉めたばかりの引き出しを開け、便せんと羽ペンを出して、僕は手紙を書くことにしました。

書く内容は決まっています、宛先は誰もいないけれど。

こうして、思い出すのは卒業式の日。いつものように笑って僕の名前を呼んだ先輩の声、振り向いたらその顔は涙で濡れていて驚きました。涙をたくさん流しながら、「卒業したくない」と大声で泣きわめく先輩。どうして良いか分からず、背中をゆっくり撫でると先輩はもっと大きな声で泣き出して、僕も泣きたい気持ちになりました。何分経ったか分かりませんが、先輩は「ありがとう」と言って僕から離れました。お礼をされるような事はしていなかったので、頷けずそのまま先輩を見ていました

先輩がこんなんじゃ、在校生に申し訳ないね、と涙を袖口で拭いてからにこり、と先輩は笑いました。

「私、闇払いになるの」

世界が止まったのかと思った、先輩の言葉が理解できず、頭を打たれたかと思うくらいの衝撃が脳に響いた。

「私ね、思ったの」

それ以上何も言って欲しくなかった、先輩の口を塞いでしまいたかった。けれど、体は動いてくれずに、自分の耳を塞ぐことすら出来ない。

「レギュが死喰い人になるのは、どうしても止められない」

「だからね、私が闇払いになって」

「次にレギュと会う時は」

「レギュが私を殺してくれるか、私がレギュを殺してあげるか、それしか無いのかなって」

気づけば、文は終わりを迎えていた。最後の一行を終えると、便せんを丁寧に折り畳んで茶色の封筒に入れた。それを引き出しの奥に入れてから、僕は部屋を出た。



誰にも言った事がない話があります、こうして今日までずっと心の中にしまっていた事です。今こうして手紙で綴っているのは、もう隠さなくて良いと思ったからでしょうか。この手紙が読まれなくても、読まれても、読んで欲しい相手に届かなくても、それでも良いです。最後の最後でこんな事をする僕を、貴方は許してくれるでしょうか?先輩の卒業式の日、僕は先輩に言いたい事がありました。けれど、それは甘い考えだという事に気づかされました。先輩が闇払いになると言った時にです。必死でそれを止めようとも思いましたが、先輩の目を見て諦めました。

あの日、僕は卒業したら結婚しませんか、と言うつもりでした。自分が死喰い人になるにも関わらずです。勝手な話ですよね、先輩なら何でも許してくれると思ったのかもしれません。そんな事をしたら2人共が辛いだけなのに、先輩があの日言ってくれた言葉には、今は感謝しています。

ごめんなさい、先輩が言った言葉守れそうにありません、僕が先輩を殺すのも、先輩が僕を殺すのも無理みたいです。

名前さん、ありがとうございました。
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