小説 | ナノ

ひとつ、ふたつ、みっつ、徐々に薄暗くなってきた空に小さな星が浮かび始めた。ホグワーツの窓からは星が良く見える。自分の家では見られない極小さな星でさえ、綺麗に光っているのだ。太陽が地平線に沈んでしまえば、空は星でいっぱいになる、晴れている時の真っ青な空も好きだけれど、星がたくさんの夜空の方が私は好きだ。

「何を見てるんですか?」

窓の外に視線を向けていると、隣にいたレギュラスが声をかけてきた。読んでいた本から顔を上げて、私が何を見ているのか探すように、レギュラスも外に視線を向ける。

「星」

笑って答えると、レギュラスは不思議そうに目を細めてから、何か納得したように「ああ」と声を漏らした。

「先輩は天文学しか出来ませんもんね」
「失礼だな、しかってどういう事だろうね」
「それ以外は良い点数を見た事がありません」
「……薬草学だって少し出来るよ」

レギュラスは頭が良い、学年で1番、2番なんじゃないだろうか、正直なところひとつ上の私よりも頭が良い。しかもレギュラスの場合は勉強が出来るのはもちろんの事、頭の回転が速い、本当に羨ましい限りだ、ついさっきもレギュラスに勉強を教えてもらっていたところで、今は休憩時間という事で、レギュラスは本を読んで、私はぼうっと外を眺めていた。

「まったく、年下に勉強を教わって何が少し出来るよですか」
「あー星綺麗だなー」
「話の逸らし方下手すぎですよ」
「だってレギュラス褒めてくれないじゃん!」
「貴方の何処に褒める要素があるんですか?」
「あ、今の傷ついた、凄い傷ついたよ」

責める様に口を尖らせると、レギュラスは面倒くさいものを見る目で私を見た。

「じゃあ褒められる要素をください」
「ふふん、ちょうど良い事に、じゃじゃーん!この前の天文学の小テストを持っているんだよ、見よ!この点数を!」
「どっちにしろ天文学なんですね」

鞄に突っ込んでおいた小テストをレギュラスに突きつけた。何と小テストとはいえ、100点満点中100点を取ってしまったのだ!ホグワーツ始まって以来の快挙だと思う。

「100点ですか…先輩にしては頑張りましたね」
「ちょっと、褒め方足りなくない?100点だよ?満点だよ、間違ってないんだよ?」

あまり驚いた様子も無いレギュラスに、100点がどれ程素晴らしいかを訴えるけれど、レギュラスはテスト用紙から視線を離さずに、上から下まで何かを探すように目を動かしている。絶対に誤字脱字チェックだ、そうに違いない。

「これは…?」

レギュラスは誤字脱字チェックをしていた視線を、一箇所で止めた。まさか、本当に誤字があったのでは無いか、と不安になった。でも誤字があったって絶対に先生になんか報告しない、自分から点数を下げるなんて馬鹿がする事だもの、レギュラスにそう言ってやろうとすると、当の本人は、憎らしい程透き通った白い肌を、徐々に赤に染めていた。驚いて、言葉に詰まるとレギュラスは眉を寄せて、怒ったようにテスト用紙から私に視線を上げた。

「何を恥ずかしい事を書いてるんですか!」
「え…?」

切羽詰ったようにレギュラスが怒鳴ってきた、その顔は本当に恥ずかしいものを見た後のようだ。反応できずに固まる私に、レギュラスがテスト用紙を裏返して、私に見えるように前に突き出してきた。

そこには丸ばっかりのテスト用紙があった、綺麗なほど丸しかない。当たり前だ100点だし、でもそこに丸以外に何か書いてあった。先生の字だ、ある回答から線が引っ張ってあって、コメントがしてある

「おまけです…?」

何がおまけなのだろう、と線を辿ると、ある回答に辿り付いた。

"レギュラス(マイダーリン)"

その答えを見て、瞬間に思い出した。そうだ、そうだった、答えがレグルスだったものだから、ついつい書いてしまったんだ。今では恥ずかしい限りだけど、テスト中は血迷ってしまったらしく、にやけながら書いてしまったんだった。なんてことだ、それを本人に見せてしまうなんてとんだ失態だ!

「えっと、あの」
「馬鹿ですか!先生になんてもの見せてるんですか!」
「だ、だってつい主張したくなって」
「先輩の思考回路は理解しがたいです」
「仕方ないじゃんレギュラスが好きなんだから!」

気づいた時には遅かった、随分と恥ずかしい台詞を大声で言ってしまった。レギュラスも呆気に取られたように目を丸くした。気まずい沈黙がその場を包む、レギュラスの顔が赤く染まるのを見て、私も顔がどんどん熱くなっていく。沈黙は痛いし、でもレギュラスの顔を見るのは恥ずかしいし、誰かこの状況をどうにかしてほしかった。その後、20秒ほど経ったのだろうか、レギュラスはふい、と背中を向けて「帰りますよ」と聞き取れない程の小さい声を出した、あわてて広げていた羽根ペンやらインク瓶を鞄に突っ込む。全部鞄に入れ終わると、レギュラスは部屋の出口に向かって歩き出した、その左手には私の右手が包まれていた。
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