小説 | ナノ

表現するなら、そうだ、リドルは作り物だ。女の子に見せる笑顔、友達に見せる笑顔、教師に見せる笑顔、全部作られた物だ。優しくて勉強が出来る優等生という、リドルの立場は作り物だ、でもだからと言ってリドルのそれが偽物というわけじゃない、リドルが作り上げたリドル自身は偽物じゃない、それでこそリドルなんだ。けど、その作り物の瞳は、たまに酷く濃い赤に光る。作られたリドルの中にある、その感情を私は知らない。隠しきれずに、光るその感情はリドルの中を埋めてしまうのだろうか、そうなれば作り物のリドルは初めて偽物になるのだろうか、そうなってしまった時、私はどうすれば良いのだろうか。たまに見せる優しい笑顔、その中に優しさを感じたのは勘違いなのだろか、リドルが見せる笑顔は偽物になってしまう、そんな未来が来てしまうのだろうか、例え作り物でも、きっと本物になれると信じていたい、そんなの甘えだと笑われるのだろうか

「名前」

目の前に突然リドルの顔が現れた。驚いて体を後ろに引くと、リドルはくすくすと綺麗な声で笑う。

「そんなに驚かなくても」
「ご、ごめん考え事してた」

リドルの事を考えてた、なんて言わないけど。でも、リドルは私の考えている事なんてお見通しに違いない。だから私がリドルの事考えてたなんて、バレバレなんだろう。

「リドル、今日も遅かったね」

照れを隠す為ように、話題を振ってみるとリドルは少しだけ困ったように眉を下げた。今は消灯時間ギリギリの時刻だ、此処はスリザリンの談話室、私は暖炉の前のソファを陣取ってリドルの帰りを待っていた。寮に入る為には絶対に談話室を通らなくてはいけない、だから私はいつも此処でリドルが帰ってくるのを待っている。そうすれば絶対にリドルに会えるから。最近リドルは、消灯時間ギリギリに帰ってくる事が度々ある。私は知りたいのに何も知らない、優等生のリドルが消灯時間ギリギリまで何をしているのか、誰といるのか、私は何ひとつ知らない。

「ちょっと、調べ物があってね」

私を安心させるような笑顔を浮かべて、リドルは遠まわしに私にこれ以上何も聞くな、と言っているのだ。私がその笑顔に弱い事を知っているから。

「もう遅いから、寝たほうが良いよ」

ほら、とリドルが手を差し伸べた。その伸ばされた白い腕がこれから私には理解出来ない事をする気がして切なかった。どうして何も教えてくれないのか、どうして私を頼ってくれないのか、そればかりが頭を駆け巡る。

「リドル・・・」

押さえきれない感情が溢れ出して、私はリドルの首に腕を回した。埋めるようにリドルの肩に顔を押し付ける、外に行っていたのだろうか、リドルの体温は低くて、熱が奪われるのを感じた。少し前に授業の帰りに繋いだ手は温かかったのに。

「名前」

何の感情も篭っていないような声色で、私の名前を呼んでから、リドルはぐっと肩を押して、私を遠ざけた。離された私とリドルまでの距離は少ししかないのに、間に生まれた距離が、とても遠くに感じられた。近くにいるのに、手が届かない。リドルはそっと私の肩から手を離すと、「ごめん」と一言言ってから、男子寮に向かっていった。その背中を追う事が出来ない。リドルが見えなくなって、私以外誰もいなくなった談話室は、暖炉の火がパチパチと燃える以外に何も音がしなくなった。その静けさが今の自分には痛くて、ただただリドルに追いつけない距離と時間を悔やみながら、涙を流した。
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