「なまえの髪はきれいだな。」

するり、するり。


櫛とクリスの指の間から私の髪がこぼれ、私はなんだか、イケナイ事をしている気分になる。
クリスが私の髪に触れる度に身体は火照り、下腹部が疼きだす。今も平静を装ってはいるが、私は間違いなく、この状況に欲情しているのだ。

クリスと私だけの、静かな空間。
今ある音は、髪を梳かす音と、彼の優しいテノールと、二人の息遣い。
時たま耳や首すじを掠める指に反応して、思わず声を漏らしてしまいそうになる。


「やわらかくて、さらさらで、絹糸に触れているようだ。」

するり、するり。


クリスはこの行為に、いつも随分と時間をかける。
ゆっくり、じっくり、ねっとり。
髪を梳かすだけでは物足りないのか、自身の指に私の髪をくるくる絡ませて弄ったり、小さな三つ編みを編んでは解きを繰り返したり、キスをしたり。

髪を触られただけで欲情するなんて、下品な女だと、変態だと思われてしまう。
念入りに、執拗に、優しく優しく私の髪を梳かすクリスと、ドレッサーの鏡越しに目が合わないよう俯く。


「それに、いい香りがする。」

クリスの顔が、近い。
鏡を見なくったって、首すじにあたる息でわかる。恥ずかしい。
瞼をぎゅっと閉じ、先ほどよりも深く俯いて、うなじに違和感。
生温かい、ぬめり気のあるモノが、首すじを這っている。
それがクリスの舌だと、すぐに理解した。
うなじから、首すじ。そして耳を、
ゆっくり、じっとり、ねっとりと舐め上げられ、とうとう、小さく声を漏らしてしまった。

「私に髪を触れられるのは、そんなに気持ちよかったかい?」

ビクッと身体が震え、顔を上げて目を開けば、いつもの穏やかな、けれども意地の悪い笑みを浮かべた彼と、ドレッサーの鏡越しに目が合った。










人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -