嘘と真

富松→池田





春休みも半分過ぎたある日の(遅めの)朝。

すっかり日差しが暖かく眩しい時間、いい加減起きろよ、妥協しろよと言うもう一人の自分に仕方なく従い緩慢な動きで枕元の携帯を開いた。

昼の一時過ぎ。
よく寝た。ああ、我ながらよく寝たと思う。

まあ昨日遊びまくったし?妥当ではある。

そんなことをつらつら思いつつ、何気なく見た、日付。

4/1。

あれ、今日なんの日だっけ。
見覚えのある日付を思い出すのに、寝ぼけた頭は少し時間を要した。

ああ、そうだ四月馬鹿――エイプリルフール。

文字通り、なんて馬鹿げた日だろうか。
嘘を吐いてもいい日なんて、道徳的にどうなんだ。

腐れ縁と化した友人、次屋はなんの躊躇いなく、前触れもなく至極自然にこの日を有効利用するから、いい思い出なんてなく、軽いトラウマとなっている。

いつもなら吐かれるだけの、嫌な日。

だけど今、四月馬鹿、といって(主に馬鹿の部分にだが)思い浮かべた顔がひとつ。

あのいけ好かない後輩に、なんともお似合いな間抜けな響きだと思った。
嘘を吐かれて慌てふためく池田の顔を想像し、くく、と含んだ笑いをつい漏らす。ああ、寝起きからいい気分なんて、案外悪い日でもないのかもな。



それから適当に飯食って、家にいるのもつまらないし出掛ける用意して、どこに行くか決めた訳でもないのでなにしようかなぁ、なんて考えてるとき、またあいつの顔が浮かんだ。
んだよ、人の思考にまで入ってくるんじゃねぇ。

さっきとは違ってなんか不愉快だった。


しかし考えようによっては、これはなにか天啓かも知れない。
つまりはあれだろ。池田を騙せ、と。


あいつとは顔を見れば言い合いをするような、お世辞にも仲が良いとはいえない仲だ。特になに繋がりの後輩って訳でもないが、やたら突っ掛かってくるので俺も対抗して……、まぁ半分じゃれ合いめいたものだ。

人を馬鹿にしきったあの顔を驚きに変えるのも、悪くないかもしれない。


例えば好きだ、とか嘘吐いてさ。あいつが驚いて、だけどすぐエイプリルフールだって気付いてさ、怒ったりするんだろう。

いいな、それ。楽しそうだ。

普段ならはばかられる嘘を吐くという背徳行為も、今日なら許される。


さっそく決めたことを実行に移すために、池田にメールを送ろう。
理由なんか適当に作ってさ。

あいつに早く会いたい、なんて思う日が来るとは思わなかった。

ああ、楽しみだ。


嘘と真
嫌いだなんて、嘘だよ。
本当は好き。だから構って欲しいんだ。
お前もそうだろ、とは言えやしないけど。



提出:四月馬鹿


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